“がん”を水攻めで破裂死――新たな治療法「光免疫療法」 開発した医師が解説

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 従来のがん治療は、「外科手術」「放射線療法」「化学療法(抗がん剤)」の三つに大別される。が、それぞれ一長一短があり、いずれも患者への負担が懸念されてきた。

 そんな中、「第4の治療法」ともいうべき手法を編み出したのが、米国立衛生研究所(NIH)の主任研究員である小林久隆医師(57)である。人体に無害な光線をがん細胞に照射することで、周囲を傷つけずピンポイントでがんを死滅させられる――。「近赤外光線免疫治療法」(光免疫療法)と銘打たれた画期的メソッドは、すでに実用化へ向けて臨床試験(治験)が着々と進んでいるのだ。

 その仕組みについて、小林医師自ら解説する。

「体に異物(抗原)が入った時、これを排除しようとして抗体と呼ばれるタンパク質が合成されます。この抗体を用いて体内でがん細胞を選択し、光を利用して殺すのが光免疫療法です。抗体は抗原にピタリと貼り付き、結合する性質があるので、がん細胞膜表面に現れるタンパク質の抗原を標的に、近赤外光に反応する物質を組み込んだ抗体を注入するのです」

 この物質の正体は「IR700」という色素で、テレビのリモコンなどに用いられる近赤外線のエネルギーを吸収するといい、

「注入された抗体はがん細胞膜表面の抗原と結合します。ここに近赤外光を当てると組み込まれたIR700が反応し、それまで水溶性だった性質が一変、水に対して不溶性の物質へと変化します。結合した抗原と抗体は不溶性となったIR700を覆おうとするため、抗原が引っ張られて細胞膜に小さな傷がつきます。この反応があちこちで起こるため、がん細胞の体積は急激に膨張し、耐えきれずに膜の表面に多数の傷が生まれる。その傷口から、周囲の水分が一気に細胞内へと流入。膨れ上がった風船がパンと割れるように、がん細胞が物理的に破壊されていくというわけです」

 実験の結果、傷が1万個程度に達するとがん細胞が破裂することが分かったという。

「実際にこの反応を初めて顕微鏡で確認した時、次々に壊れていくがん細胞は、まるで焼いたお餅が破裂する様子にそっくりだと感じたものです」

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