「肺がん」治療法を提案、「子宮頸がん」「乳がん」への取り組みも AIが切り拓くがん治療の最先端

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子宮頸がんに効果的

 未だ発展途上といったところだが、それだけ肺がんはAIにも手強い相手なのだ。

 東京医科大学の黒田雅彦主任教授は、

「AIの導入が一番難しいのは肺がんだと思います」

 と指摘するが、いったい何故なのだろうか。

「がんを構成する細胞は、肝細胞がんの場合、比較的単調です。けれど、肺がんは種類が豊富なうえ、がん組織を構成する細胞が多彩です。特にがん周囲の間質細胞や免疫細胞の存在が、AI診断を難しくしています。しかし我々の大学は症例が多く、呼吸器科の池田徳彦主任教授と共同で、AI画像診断の実用化が可能になりそうです」

 現状では、肺がんを診断するよりも、すでにがんと診断された患者に対して適切な治療法を提案することに応用していくと黒田氏は話を継ぐ。

「現行の医療制度下では、どの治療薬が効くのか、効かないのかという判断は、患者さん個々の遺伝子を見ていたのですが、画像を見て判断する方が早いしコストも格段に安い。遺伝子診断は標本を作成する手間もかかって費用は数万ほどかかりますが、AIによる画像診断システムを使えば、免疫チェック阻害剤の効果判定などの実費は数十円で済み国の財政も痛みません」

 画像診断では、遺伝子診断の代わりに、がん細胞の全体像を捉え、その特徴から適切な薬を提案するのだ。

 黒田氏らのAIは、他のがんへの応用も可能で、特に子宮頸がんに効果的という。

「日本は先進国で唯一、このがんが増加しているんです。様々な問題からHPVワクチンが普及していないことや、多くの日本人が感染しているHPV52型や58型のワクチン開発がされていない事も一因です。中国や東南アジアも、同様の理由で患者が増えています。私たちは中国からの依頼があり、患者の細胞画像をAIに取り込むと、子宮頸がんかを分析して判断してくれるシステムを開発しています。人間が作業すると15分ほど要するのに、AIは殆ど時間がかからないうえ、とても精度が高いのです」

 理由は診断方法にあった。通常それは「細胞診」と「組織診」に分かれるが、2つの違いはがんが疑われる患部を「個々の細胞で見るか」「組織全体で見るか」に大別される。子宮頸がんではまず初めに「細胞診」を行い陽性となってから、患部を削り取る「組織診」の検査に移行するというが、

「子宮頸がんの場合、1つの症例で100近くのサンプルが『細胞診』から採れます。前述した通り、肝臓がんは細胞が少ないので、1症例あたり1サンプルしか採れない。必然的にAIの経験値が上がるので、診断の正確さも向上します」

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