中村勘三郎さんの「食道がん」治療は正しかったのか――知っておくべきステージIIIの生存率

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がん難民にならないための「セカンド・オピニオン」(2)

 高度化するがん医療の一方、その選択に悩む「難民」は増え続けている。外科医で腫瘍内科医でもある大場大氏(44)が、あるべき心構えを説く。

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 知っておいていただきたい数値があります。それは、全国がんセンター協議会 (全がん協) 加盟施設の生存率データです。

 2001〜03年に行なわれた胃がん手術症例のうち、進行胃がんステージIII(1429例)の5年生存率は45%と報告されています。つまり、治ることを目指して手術のみで勝負をしたとしても、実に半数以上が再発して治らなかったことを意味します。

 現在では、術後に経口抗がん剤を服用することで、再発リスクをより抑えるとされていますが、論文報告に従うと、再発リスクの高いステージIIIBでは、5年生存率は手術だけだと44%。抗がん剤を服用しても50%と状況は大して改善していません。要するに、進行がんであればそれだけ、エビデンスに縛られない医師としてのプロフェッショナリズムが問われることを意味します。 

「近藤誠理論」が的中?

 さて、他のがん疾患ではどんな状況でしょうか。

 前掲データによると、局所で進行しているステージIIIの5年生存率で、

・胆管がん18%(78例)

・膵がん9%(127例)

・肺がん38%(847例)

・卵巣がん43%(346例)

・膀胱がん56%(132例)

 と、手術を受けるだけでは満足できる成績とは程遠い現実があります。

 中途半端に手術を受けた結果、容易に再発し、QOL(生活の質)を落とすだけだったということにもなりかねない。それは、「がんは放置すべし」「手術は受けるな」「医者に殺される」などの、いわゆる「近藤誠理論」が的中するかのようです。

 そんな悪夢をかいくぐり、再発リスクをできるだけ減らし、治癒率を高めるために、各々に対応した戦略が求められるのです。

 あるとき、「食事が通りにくくなるほど進行した食道がん」と診断された患者さんのご家族から、こんな相談を受けたことがあります。

「地方の病院で主治医から、“早く手術をして治しましょう”と説明を受けました。すでに日程も決められています。父親(患者)は、自分の経営する会社を長く留守にはできません。ですから、できれば手術という手段ではなく、なるべく早く社会復帰できる治療を望んでいます」

 このがんは、縦隔のリンパ節に転移して気管に達しているほどのものでした。

 その病院では食道がん手術の経験が乏しく、更に悪いことに、後述する「術前化学療法」の提示すらなかったと言います。専門性のない外科医が自分の仕事の延長で「手術ありき」を示しただけのお粗末なやりとりだったわけです。

 この患者さんは、自らの判断で手術をキャンセルし、「化学放射線療法」を選択しました。現在は食事も普通に食べられるようになり、またこれまで通りの社会生活に復帰されているようです。

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