食べものだけで余命3カ月のがんは消えない! 「がん食事療法本」が「がん患者」を殺す

ライフ 週刊新潮 2017年8月31日号掲載

  • ブックマーク

ゲルソン療法の怪

 真偽が定かではない体験談を連ねるが、学術論文として証明する姿勢を一切見せない医師による書籍も少なくありません。

『ガンと闘う医師のゲルソン療法』(星野仁彦/マキノ出版)の著者は、後述する「ゲルソン食事療法」の普及に長年努めている精神科医。27年前にS状結腸がんを患って手術し、その後、肝臓に2カ所の転移(肝転移)を認めたといいます。本文では、その頃の5年生存率データは0%だったが自分には奇跡が起きたと強調する。しかしながら、ここで冷静に捉えないといけないのは著者が患ったのは「大腸がん」であること。

 大腸がんの肝転移は、ステージ4であっても治癒する可能性が十分ある疾患です。記述をたどると、彼の肝転移は1センチ程度のものが2個。それらに対してエタノールを注入する局所治療を受けており、結果はうまくいき、腫瘍は2つとも壊死したとも書かれています。この時点で、星野氏のがんは治ってしまったのではと私なら考えるところです。

 というのも局所治療がうまくいったということは、手術やラジオ波焼灼術と同じ効果があった可能性があるから。東大病院やがん研有明病院のデータを参照すると、星野氏と同様な2個の大腸がん肝転移の生存成績は、手術のみで5年生存率は約60%。決して0%などではありません。けれど、がんを克服できたのは、その後に行ったゲルソン療法の恩恵だと彼は主張するのです。

 当の療法は「がんになるのはがん細胞が好む悪い食事を摂っているからだ」と1930年代にドイツ人・ゲルソン医師が提唱したもので、トンデモ療法に他なりません。

 具体的には、天然の抗がん剤と称して1日に計2~3リットルもの大量の野菜ジュースを患者に飲ませ、厳格に塩分を禁じ、カリウムとビタミンB12、甲状腺ホルモン、膵酵素を補給させ、極めつきはコーヒー浣腸まで。肝臓のデトックス効果と代謝を刺激して自然免疫力をアップさせると言うのですが、なんのこっちゃ。

 更に悪いことに、ゲルソン医師は信頼できる医学論文を一切書いていません。根拠を示す実験データも皆無で、いわば思いつき。成功例の報告も真偽が不明と無い無い尽くしで、これまでに多くの死亡例や重篤な副作用が報告され、欧米では代替療法としてこれに近づかないよう通告がある、危険なオカルト療法扱い。なのに星野氏は彼を天才と崇めるのです、こんな風に。

「ゲルソン療法は、数ある食事療法の中でも、効果は抜群です。私自身も、この療法を実践することによってガンの再々発から免れることができました。さらに、私はこれまで何十人もの患者さんたちを指導してきて、(略)ゲルソン療法の効果は横綱級だと確信しています」

 星野氏自身、ゲルソン医師と同様、真偽も不明な体験談を連ねるのみで、まともな学術論文を書いていません。この療法を頼ってしまったために、何の効果もないどころか、下痢、衰弱、電解質異常、そして急速ながんの悪化など、大切なQOLを低下させられた患者さんを私は何人も知っています。そして、みなゲルソン療法を選んだことを後悔しながら命を落としていきました。

次ページ:病勢制御率のまやかし

前へ 1 2 3 4 次へ

[3/4ページ]