「週刊新潮」報道、戦後初の死刑囚逮捕へ 事件を闇に葬ろうとした警視庁の怠慢

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■遺族の切実な思い

 今回、斎藤の事件が立件される運びとなったことで、少なくとも、この新たな事件の公判が終結するまでは彼の死刑は執行されない。そもそも彼の告白の目的が死刑執行の先送りにあったことは疑いようがなく、「厭戦ムード」が漂う警視庁は、あろうことか、この件をしばらく放置した。

 矢野が犯行を告白する手紙を受け取っていたのは、警視庁目白署と渋谷署。手紙を受け、目白署は14年末に東京拘置所で形ばかりの事情聴取を行ったのみ。渋谷署に至っては確認にすら動かず、無視したのである。

 さらにその間、両事件で死体遺棄役を務めた元矢野睦会組員、結城実氏(仮名)にはコンタクトを取ろうとした形跡すらない。結城氏が本誌の説得に応じて事件の全容を明かし、〈永田町の黒幕を埋めた「死刑囚」の告白〉というタイトルの記事が掲載されたのは昨年2月。すると、警視庁は慌てて結城氏に接触、事情聴取を始めたのだ。

 そして4月10日、矢野はようやく殺人容疑で逮捕され、「延命」の目的をまんまと達成した。死刑囚の歪んだ目的が果たされてしまうくらいなら、事件は闇から闇へと葬られたほうが良かったのではないか。もしかしたらそうお考えになる方も中にはいるかもしれないが、そんな方には殺された2人の遺族の声に耳を傾けていただきたい。

 伊勢原市の津川さんは宅配便を受けとろうとサンダル履きで自宅を出たところを襲われた。予兆は一切なく、津川さんの妻は、「いつか“ただいま”と言って帰ってくる」と僅かな希望を持ち続けていたという。

「もし埋められているのが事実なら、掘り出してあげたい。何より主人が望んでいる筈です。亡くなったというのなら、骨だけでもいいから私の元に帰ってきてほしい」

 と声を絞り出したのは津川さんの妻。もう1人の被害者、斎藤の姉の言葉にも切実な思いがこもる。

「弟の死が事実なら、警察の力を借りて、せめて骨だけでも拾い上げたい」

 本誌報道によって警察がようやく捜査を始めたことにより、2人の被害者の遺骨は暗い地中から発見され、遺族の願いは叶えられた。また、遺族が真相を知りたいと望んでいることは言うまでもない。いずれの側面から見ても、事件を闇に葬ろうとした警視庁の怠慢は断罪されるべきである。

特集「永田町の黒幕を埋めた『死刑囚』の告白 事件を闇に葬ろうとした『警視庁』ジレンマ八百余日」より

週刊新潮 2017年4月20日号掲載

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