「ツキノワグマ掌まるごと」そば、「1本6500円」の最高級食パン 日本の超高級ガイド

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“八珍の一つ”熊の手そば

 記者はまず「幻の食」を求めて、山形県小国町のある山村に向かった。JR米沢駅から西に70キロ。車で1時間半ほど山道を走ると、飯豊(いいで)連峰の麓にある小玉川という集落に着く。そこは300年以上の歴史を持つ「マタギの里」だった。

 目当ての品は、当地で民宿を営み30年という「越後屋」が供する「熊の手そば」である。その名の通り、ツキノワグマの掌(てのひら)がまるごと一つ豪快に盛られたそばだ。食材の珍貴さゆえ、値段は1杯10万円(税込)!

 古来、中国でも熊掌(ゆうしょう)は最も美味な肉とされ、“八珍の一つ”として宮廷料理のメニューにもなっていた。「越後屋」の店主で、自身もマタギ歴40年の本間信義氏が語る。

「今回、食べていただくのは、2016年の春の猟期に捕獲した熊のものです。値段が張ることもあり、これまでお客さんに出せたのは10回ほどだけ。しかも東日本大震災直後、県内2カ所で獲られた熊から基準値を超えるセシウムが検出されたため、熊肉の販売は厚労省から禁止されていた。それがこの春、4年ぶりに解禁されたのです」

 まさに「幻の食」と呼ぶにふさわしい。

 いざ目の前にお椀が出されると、その迫力に圧倒される。薄く緑がかった平打ちそばの上に、骨と爪を取り除いた熊の掌がどんと鎮座し、お椀の半分ほどのスペースを占有している。その周りには、熊肉、わらび、ねぎ。掌の皮を剥くと、プルプルと薄茶色に輝く、厚さ4センチほどの脂の塊がのぞく。口に含んで驚いた。あまりに柔らかい。咀嚼すると、濃厚な脂の甘味と旨味、味付けの味噌の香りが口一杯に広がる。獣臭は皆無だ。

「熊の肉の味は、生前、その熊が食べた物によって変化する。この熊はブナの実をたくさん食べていたから、脂が甘いんです」(同)

 茶褐色のスープをすすると、これもまた驚愕するほど甘く、とろっとしている。

「スープも熊の骨から取っています。骨髄が溶け出すので、とろっと濃厚な出汁が取れる。レシピを明かすと、まず熊の骨と掌を煮込みます。スープが出たら、そこに肉も入れる。肉を後から入れるのは、歯ごたえを残した方が美味しいから。その後、味噌と酒、企業秘密の臭み消しを入れて、そこから1時間ほど煮込むと完成。骨と掌は4時間、肉は2時間ほど煮込むことになる。熊肉はものすごく硬いので、これだけ煮込まないと美味しくできません」(同)

 マタギ文化が生んだ熊掌の脂の深い味わい。それは他の肉では経験したことのない未知との遭遇だった。

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