移住者が殺到で出生数も急上昇! 「五島列島」自給自足できる小さな島――白石新(ノンフィクション・ライター)

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■暮らし自体が観光資源

 年間を通しての豊富な水産資源。島はそれを雇用の創出にもつなげている。

「“醤(ひしお)”などの加工食品を産み出して、島の新たな産業にしたい」

 と意気込みを語る吉岡美紀さんも移住者。食品産業に従事した経験はなく、小値賀島で一からこの仕事をはじめた。

 また、和牛の繁殖も盛んで、島のいたるところで立派な牛を見かける。海風を浴びながら牧草を食んで育った長崎和牛は、品評会で全国1位になるほど評判が高いのだ。

 このように第1次産業が充実すればこそだろう、小値賀島の第3次産業にも注目が集まりはじめた。NPO法人「おぢかアイランドツーリズム協会」が推進する「民泊」と「古民家ステイ」という2つの事業がそれで、島民にも移住者にも、島の魅力を再確認するよい機会になっている。

「民家に泊まって、島民の暮らしを味わってもらいます。この島の暮らしそのものが観光の目玉として、都会の人に訴えると思う」

 そう語る前出の高砂さんは、先のNPO法人と足並みそろえて島の観光を促進する「小値賀観光まちづくり公社」の社長でもある。高砂さん自身、この島に移り住んだ理由について、

「家族と一緒に自給自足の生活ができ、なおかつ大手のチェーン店やコンビニがない場所を探していて、小値賀島に出会った」

 と言う。事実、山奥にもコンビニがあるのが当たり前の日本にあって、小値賀島には大資本による店はまったく見当たらない。だからといって、不便であるかというと違う。自給自足が可能なほどにあふれる農産物、水産物の豊かさの前に、現代的な利便性の価値などすっかり霞んでしまう。その意味で、島の民家に泊まること自体が「観光の目玉になる」という高砂さんの話には、説得力がある。

 だが、当初は島民には理解されなかったという。

「旅館は1軒、民宿もちょっとしかない島で、民家に泊まるのが観光になるという意味がわからなかった」

 と正直に話すのは、先祖代々、小値賀島に暮らす漁師。実際、民泊に参加した家は、当初7軒にすぎなかった。それが現在、約40軒までに増えたばかりか、

「民泊した観光客のなかに、本気で移住を考えはじめる人がいる。実際の暮らしを目の当たりにして、移住をよりリアルに考えることができるのでしょう」

 と、役場関係者。観光が結果的に、移住者のリクルーティングにもなっているようだ。

 そんな小値賀島の民泊は、2度も「世界一」に認定されている。アメリカの民間教育団体ピープル・トゥ・ピープルは、高校生を国際親善大使として各国に派遣しているが、2007年と08年、参加者から「世界一」の評価を得たのだ。すでにのべ2000人以上、アメリカの高校生が島を訪れ、

「“また絶対に小値賀に来ます”と、泣きながら帰っていく子も珍しくありません。海外から若者が来るのは、島民にとってもよい刺激になっています」

 と、50代の民泊経営者は誇らしげに語る。

 また、築100年以上の家をリノベーションし、宿泊できるようにした「古民家ステイ」も人気を集めており、島を訪れていた60代の観光客に尋ねると、

「高級ホテルなみの雰囲気を、離島で味わえるとは思いませんでした」

 と満足げである。

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