都心で狩猟!? 東京湾で“捕まえて、食べる”を実践してみた

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 自分の手で獲物を捕まえる。それは人間にとって根源的な欲求ではないだろうか。見当違いの見立てだとしても、昨今狩猟がブームだ。狩猟免許をもち週末だけは「狩り」にでかける「狩りガール」なんて女子もいる。しかしいささかハードルが高いのもまた事実。なんとか狩猟本能をお手軽に満たせないだろうか。ウェブメディアで身近で「狩り」に勤しむ様子を連載している「無免許ハンター」玉置標本さんに相談してみた。玉置さんはこれまでに獲った獲物と狩猟の記録を一冊にまとめた『捕まえて、食べる』を上梓したばかり。出版を記念し、玉置さんに都内からすぐに行けて、楽しい「狩猟レジャー」をリポートしてもらった。

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当たり前だが夏はとっても暑いので、ちょっくら海にでも入りたい。ただ海に入ってチャプチャプするだけではなく、せっかくだからなにか獲物を捕まえたい。でも自分で道具を揃えたり、場所を探したりするのは大変だ。手ぶらで行って、お気軽に狩猟本能をたっぷりと満たせるレジャーはないだろうか。

そんなわがままな希望を叶えてくれる遊びが、東京湾アクアラインの千葉県側の付け根付近でおこなわれている簀立(すだて)漁である。別名は簀立遊び。

「簀(す)」とは、竹などを編んだもの。遠浅の海岸の沖に、簀を巨大迷路のように立てたものが簀立(現在は金網ですが)。この簀立に迷い込んだ魚たちを、水深が浅くなる干潮時に捕まえる遊びが簀立漁で、大正時代から観光用として続く漁なのだ。

この遊びのシーズンは、4月半ばから8月いっぱいまで。簀立が設置されているのは広大な干潟の一角で、大潮の満潮時には水深が2メートル程あるが、干潮時になると海底が現れるような場所だ。

今回お世話になったのは、袖ヶ浦駅が最寄りのつぼやさん。簀立漁は30名以上の貸し切りが基本だが、予約制の乗合スタイルもおこなっていて、我々が利用したのも乗合方式。潮位が下がる日にしかできない遊びなので、開催される日はかなり限定され、予約がすぐに埋まってしまうことも多いようだ。

干潮時刻から3時間前の集合時間に船へと乗り込み、他のお客さんたちと一緒に簀立のある場所へと出発進行。この船で目的地へ行くという行為がすでにレジャーであり、アクアラインを眺めながらの優雅なクルージングは、もう料金の何割か分は楽しませてくれたんじゃないだろうか。これぞ私が求めている非日常の体験だ。

遠浅の海を10分ほどドンブラコと沖へとすすむと、目的地である簀立へと到着した。岸側から沖側に向かってスタッポと呼ばれる竹筒と金網の壁が延びており、その先にカサという、入れるけれど出られない仕組みの囲いが待ち構えている。

魚は壁沿いに泳ぐ性質があるため、スタッポにぶつかると自分からカサへと入り込んで、次々に溜まっていく。そこへ我々が網を持って突撃するという寸法だ。

魚は壁沿いに泳ぐ性質があるため、スタッポにぶつかると自分からカサへと入り込んで、次々に溜まっていく。そこへ我々が網を持って突撃するという寸法だ。

もちろん自然が相手なので何が捕れるかは日によって違うのだが、漁師さんの話によると、スズキ、ボラ、アナゴなどの東京湾を代表する魚たちが期待できるようだ。また運が良ければアオリイカやクロダイなどが入ることも。まさに小型の定置網なのである。

準備万端整ったところで、漁師さんの合図で簀立の中へと一斉に突入する。捕った魚はすべて自分で持ち帰るシステムなので、早い者勝ちの奪い合いだ。この日は風が強くて魚の入り具合はいまいちのようだが、それでもスズキやボラの泳ぐ影がみえる。

まだ潮が引き切っていない勝負のステージで、ちょっと小さめの網を手にして魚との全力での追いかけっこに挑む。子供たちはもちろん大喜びだが、大人だって大はしゃぎだ。体が濡れることなんて全く気にせずに、童心に帰ってザブザブと走り回る興奮は何にも代えがたい。

囲われた中で魚をすくうなんて簡単だと思うかもしれないが、水の中を泳ぐ魚は想像以上に素早く、大人が本気になってもやすやすとは捕まってくれない。みんながバシャバシャと網を振り回すので濁りもすごい。だからこそ、目の前に現れた魚をうまいこと網で捕まえたときは、観光の域を超えたリアルな喜びと達成感に満たされるのだ。

とかいって、私が捕まえられたのはダツという細長い魚とアナゴ、そしてカニくらいのもので、狙っていたスズキやボラは次々と捕えられていった。こういう遊びにはけっこう自信があったので、一番大きな魚を捕まえてハトヤのCMみたいな写真をお届けしたかったのだが。まあ、楽しかったから良しである。

魚捕りが一段落したところで、船の上でのランチタイムとなった。これは簀立の料金に含まれており、地元の海産物を使った料理が楽しめる。名産のアサリはもちろん、新鮮なボラの洗いやダツの天麩羅、生ノリの酢の物など、高級ではないかもしれないが、なかなか食べられない食材がうまい。

そしてお腹が満ちて潮が引いたところで、網から熊手に武器を持ちかえての潮干狩りタイムとなった。アサリやバカガイ(アオヤギ)といったお馴染みの貝は少なかったが、少し深めに掘るとカガミガイという大きめの貝が大量に出てきた。残念ながら魚捕りが不完全燃焼だったが、努力と収穫が比例する貝掘りにすっかり癒された。

大正時代から続く簀立という遊び、そして縄文時代から続く潮干狩りのリレーで、夏らしい一日をしっかりと満喫させていただいた。さらに帰宅後は、捕まえたばかりの新鮮な魚介類を使った夕飯を作って食べるという延長戦が待っている。メニューは漁師さんに捌き方を教わったダツと極太アナゴの天麩羅、たくさん捕った少年から分けてもらったボラの刺身、そしてカニと貝の味噌汁だ。観光としての漁とはいえ、自分で捕まえて(ないのもあるが)料理したからこそ味わえる充実感が、心の底から湧きあがってきた。

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〈簀立網元 つぼや〉
8月末までがシーズンです。干潮の時刻や潮位によって開催予定が決まるため、詳細は以下で確認ください。
http://sudate.web.fc2.com/index.html

料金:乗合の場合(今シーズンの予約は終了、貸切のみ受付可)
平日:大人1人6,500円(小学生以下1人3,000円)
土日祭日:大人1人7,500円(小学生以下1人3,500円)
*貸切も可能。詳細は確認ください。

問い合わせ・予約 *夜間のお問合せはご遠慮ください
電話:0438-41-0600
FAX:0438-42-1479

金田漁業協同組合(千葉県木更津市中島4412。隣接漁港最寄り駅はJR内房線・袖ヶ浦駅及び巖根駅です。駅からタクシーで10分程度)

玉置標本(たまおき・ひょうほん)
1976年埼玉県生まれ。大学時代を山形県で過ごし、東京のウェブ制作会社に勤めた後、30歳でフリーライターに転身。現在は埼玉在住で2児の父。趣味は釣りを中心とした食物採取全般で、週に1度はなにか天然物を捕って食べている。2004年以来、ネット上にその様子を記してニッチな支持を集めている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味で、同人誌「趣味の製麺」を不定期刊行中。※[玉置豊」から、この本の刊行を機に改名した。

2017年8月4日掲載

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