移住者が殺到で出生数も急上昇! 「五島列島」自給自足できる小さな島――白石新(ノンフィクション・ライター)

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■「絶対に移住したい」

 小値賀島の“資源”を活かしたこれらの観光事業は、短期間に華々しい成果を上げている。07年におぢかアイランドツーリズム協会が設立される以前は、島を訪れ、かつ宿泊する観光客は年間数千人程度だったが、すでに2万人にまで増加。島全体の観光収入も、協会設立までは数千万円だったのが、現在は2億円規模に達した。

 ところで、小値賀島には一般的な娯楽施設はほとんどない。パチンコ店、カラオケ店、そして飲食店が点在する程度だが、たったひとつの例外がある。

「“死ぬまでに一度はプレーしてみたいゴルフ場”といったアンケートをとったら、必ず上位にランクインするに違いない、素晴らしいゴルフコースがある」

 と、ゴルフ誌のベテラン編集者が言うのは、島の北西に位置する浜崎鼻ゴルフ場である。

「かつて牧場だった場所をゴルフ場にして、“はまゆう会”という島民の団体が維持管理しています。姫高麗芝が一面に自生しているグリーンの先に、いきなり東シナ海が広がるゴルフ場など、日本にはほかにありません。“日本のセントアンドリュース”と呼ぶ人もいます。こんな場所で毎日ゴルフができたら、どれだけ楽しいか」(同)

 申し込めば誰でもプレーでき、ここでプレーするためだけに、遠方から島を訪れる人もいるという。定期便が着く港の近くで観光客に声をかけると、

「畑仕事をして、魚を釣って、ゴルフもできる。いつか絶対に移住したい」

 と、力強く言い切った。

 昨年、小値賀島の出生数は20名を超えた。島民が5000人以上いた、20年以上前の水準にまで持ち直してきている。

 グローバルスタンダードや自己責任といったかけ声の下、敗者にはチャンスが与えられにくくなった現代日本にあって、今なお、日々の「おすそわけ」が当たり前の島。昔から貧困家族にチャンスを与える文化があり、今もよそ者を積極的に受け入れ、あまつさえ出生数さえ増加している。そんな小値賀島に一歩足を踏み入れれば、閉塞感が漂うこの国の未来に少しは希望が感じられるかもしれない。もっとも、すぐに移住を決意してしまいかねないという“危険性”と隣り合わせではあるけれど。

白石新(しらいし・しん)
1971年、東京生まれ。一橋大学法学部卒。出版社勤務をへてフリーライターに。社会問題、食、モノなど幅広く執筆。別名義、加藤ジャンプでも活躍し、「今夜は『コの字で』」(原作)がウェブ連載中。

週刊新潮 2015年4月30日号掲載

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