古民家、あぜ道、蕎麦畑…飛騨古川の「当たり前の日常」が外国人に人気なワケ──外国人が熱狂するクールな田舎の作り方(3)  

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 インバウンド・ツーリズムによって地域の課題解決を図り、実際に多くの外国人旅行者の来訪と、事業の担い手となる移住者の増加につなげたSATOYAMA EXPERIENCE。そのサイクルは徐々に回るようになってきたにせよ、地方の衰退という現実は否応なく進んでいるのも事実だ。雪国飛騨の秋には、伝統的な古民家の解体現場にしばしば遭遇する。人口がゼロになっていく集落もある。

 525日間の世界旅行を経験して日本の素晴らしさを発見したからこそ、「多くの価値を継承してきた日本の田舎に住む」と決めて飛騨に移住した株式会社「美ら地球(ちゅらぼし)」代表の山田拓氏にとって、それは「自分自身の移住の意味が失われる」ような事実だった。

「美ら地球(ちゅらぼし)」を立ち上げた後、山田氏は地域の古民家の状況を調査し、それを里山オフィスや里山の宿として再生させる事業にもつなげていった。しかし、それでも人口減少という事実の前では「蟷螂の斧」といった感もぬぐえない。

 この状況を、手をこまねいて見ているしかないのか。手がないわけではない。ここでもカギは「インバウンドの視点」である。

里山の魅力をより理解できのは「外の人」

 山田氏は著書『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』の中で、次のように述べている。

「里山の叡智、この日常の魅力に『なんてステキなんだ!』と恥ずかしげもなく言い切れるのはどういう人でしょうか? 個人的な意見では、地元の住民よりも私たちのような移住者や、世界中から訪れる旅行者の方ではないかと思います。

 私自身、アフリカを旅して、『お前の国日本はスゴい!』と言われたり、他国の歴史と自国の歴史を比較し、自分が思った以上に自国の歴史の蓄積が長く豊かであることに気がついたりという経験もあります。地方に講演に呼ばれ、『日常の暮らしそのものに価値がある』と言っても、話をするだけではなかなか理解してもらえませんが、次のように言うと、何となく理解して貰えます。

『皆さん、水や空気にありがたみを感じられた経験はあるでしょうか? あまり、無いのではと思います。しかし、もし、宇宙空間に向かい、大気圏を越えて、酸素が減ってきて息苦しくなって死にそうになったとします。その後、地球の大地付近に戻ってきて、好きなだけ空気を肺一杯に吸い込んだら、それはそれは空気のありがたみを感じられますよね』」

 SATOYAMA EXPERIENCEのゲストが感動するのは、カエルの鳴き声が拡がる田んぼ、小学生のランドセル姿、側溝に豊かな水の流れるあぜ道、蕎麦畑の白い花の中に立つ古民家などだ。いずれも地元の住民にとっては「当たり前の日常」である。「当たり前の日常」が、世界的な視点で見てどれほど貴重であるかは、なかなか地元の人には理解しにくい。だからこそ、「外」の視点が重要なのだ。

里山からSATOYAMAへ

 山田氏が代表を務める株式会社「美ら地球(ちゅらぼし)」では、「里山からSATOYAMAへ」というスローガンを掲げている。山田氏はこう語っている。

「日本の里山の価値は、これらに慣れ親しんだ日本人だけではもはや維持しきれない。それよりも、里山の価値を身近に保持してはいないが、それに価値を感じる世界中の方々との連携という術をとった方が、よほど里山を守り継いでいける可能性が高い。

 私たちのゲストの大半は世界中から来た旅行者ですし、古民家保全のボランティア活動を告知すると外国人が何人も参加してきます。シンガポールや台湾などから視察も来る。私が台湾から講演を依頼された時のテーマも『里山精神とは』というものでした。藻谷浩介氏の著書『里山資本主義』でも指摘されていましたが、里山の価値が世界的にも注目されるものになっていることは、私自身が肌で実感しています」

 地方で講演する際、山田氏は「地域のありのままを継承していきたいのなら、なおのことインバウンドの視点を」と訴えていると言う。それに対して「ウチは語学が…」との悩みを吐露する地域も多いが、逆に言えばそこをクリアすれば、他の地域に対して競争優位に立つこともできる。過疎化に悩む地域こそ、インバウンドの視点での再生に可能性があるのだ。

デイリー新潮編集部

2018年1月25日掲載

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