平幕優勝、不祥事で大関陥落、三段目から出直し…いま再び優勝争いに絡む32歳「朝乃山」 波乱の実力派にみなぎる「誰にも負けたくない」の気合い【令和の名力士たち】
波乱に見舞われた実力派
2026年最後の本場所、11月場所(福岡国際センター)まであと1カ月を切った。力士たちは秋巡業を終え、勝負の土俵に向けた調整に励んでいる。白熱する優勝争い、若手力士のめざましい活躍もあって、この場所でもチケット争奪戦は激しいはずだ。だが、いつの世も真に人を魅了するのは、力士たちの磨かれた技と個性である。
ノンフィクションライターの武田葉月氏が、注目すべき現役力士たちを紹介するシリーズ「令和の名力士たち」。第8回は2019(令和元)年夏場所で平幕優勝を飾ったが、コロナ禍でのコンプライアンス違反が災いして大関陥落、ケガに悩まされながらも精進を続け、2026年は度々優勝争いに絡んだ朝乃山が登場する。
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【写真】恩師の遺影、トランプ氏が抱えた30キロのトロフィー…19年「朝乃山」の平幕優勝と現在 引き締まった表情に見える成長と覚悟
令和最初の本場所で優勝
「アサノヤマ、ヒデキ!」
2019(令和元)年夏場所千秋楽、安倍晋三首相(当時)と共に、両国国技館で相撲観戦を楽しんだ米国大統領(第1期)のドナルド・トランプ氏が、表彰式に登場した。
トランプ氏は50キロものアメリカ合衆国大統領杯をみずから抱えて、優勝した朝乃山に渡して、祝福。国技館を埋めつくした満員の観客のテンションが最高潮に達した瞬間だった。
奇しくも、元号が「令和」に変わった最初の本場所。優勝を射止めた「朝乃山」の四股名は、人々の記憶に深く刻まれることとなった。
三段目付け出しでデビューして、4年。この場所、前頭8枚目で迎えた朝乃山は、初日から5連勝するなど、序盤から好調だった。12日目までに2敗を喫したものの、13日目には単独トップに立つ。
「振り返ってみると、13日目の栃ノ心戦がポイントでしたね。栃ノ心関はこの一番に『大関復帰』を賭けていましたし、自分も2敗を守りたい一心だったのですが、土俵際で(栃ノ心の)引き技を食ってしまって……。軍配は栃ノ心関に上がったんですが、『栃ノ心関のかかとが、土俵を割っていたのではないか?』という物言いがついて、協議の結果、行司差し違えで自分の勝ちとなったんです。ラッキーでしたね(笑)」
富山からの優勝力士は103年ぶり
この白星で優勝を引き寄せた朝乃山は、翌14日目に大関・豪栄道との一番に勝ち、横綱・鶴竜が結びの一番で敗戦すれば、自身の初優勝が決まるという展開になった。
豪栄道戦を制した朝乃山が土俵下で見つめる中、鶴竜は栃ノ心に敗れる。目の前で「初優勝」が決まった瞬間だった。
「うれしかったですよ、もちろん。ただ、その日(14日目)は実感が湧かなかったというか……。翌日の表彰式で、安部首相やトランプ大統領から祝福を受けた時、ようやく『本当に優勝したんだ』と感じたほどでした」
朝乃山はこう初優勝を振り返る。
出身地・富山からの優勝力士は、横綱・太刀山以来103年ぶりということもあり、場所後は、富山市での優勝パレード、大阪・近大近くでのパレードなどが続き、「朝乃山フィーバー」に沸いた。
「初優勝」という大きな経験は、その後の朝乃山にとってプラスに働いた。翌名古屋場所こそ負け越したが、ここから大関への道が拓けていくのである。
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