ベテラン実況アナが「CS導入で球場の雰囲気が様変わりした」と語る理由…「担当するチームが優勝争いに絡まないと実況はうまくならない」の深い意味

  • ブックマーク

選手にも緊張感が

 前回も書きましたが、CSファーストステージは、ペナントレースで2位になった球団主催(今年はセが巨人、パが西武)で、その本拠地球場で開催されます。

 2位チームのファンは「シーズンの借りをファイナルで返し、日本シリーズに行く」。対して3位チームのファンは「ここで2位を撃破して、うちが優勝チームと対戦するんだ」と、それぞれの思いで声援を送ります。思いが強くなればなるほど、同じ声援でも声が大きくなり、メガホンをたたく手にも力がこもります。

 応援席は言うに及ばず、シーズン中はほとんどメガホンを持たず、応援歌を歌うでもなく観戦していたバックネット裏の最上席のお客さんまで、メガホンをたたき、声を出して応援する姿を見かけます。こうしたスタンドのお客さん一人ひとりの思いが大きなうねりとなって、球場全体を覆うのです。

 一方、出場する選手からは、シーズン中とは比べものにならない一試合の重要さがひしひしと伝わってきます。ピッチャーの1球、バッターのひと振り、野手のミス一つで流れが変わる野球。シーズン中は1/143である1試合の勝敗が、CS以降では命取りになるからです。また、球団職員と話をしても、いわゆる「高揚感」が伝わってきます。やはり結果を残したチームのみに与えられた舞台なのです。まさに「熱気に包まれる」とは、このことなんだな、と納得させられました。

 今年は、セパともに、3位のDeNAと北海道日本ハムが、2位の巨人と西武を倒し、ファイナル進出を決めました。選手の力はもちろんですが、ファンの声援も大きな支えになったことは間違いないでしょう。

 ファーストステージでさえこの状況ですから、ファイナルステージではここからさらにヒートアップします。

担当チームが優勝争いをしないと…

 このような雰囲気の中で実況するのは、アナウンサーにとっても貴重な経験になります。一つ一つのプレーに対して、こちらが描写した瞬間に沸き起こる歓声――たとえるなら元々劇的な映像に、雰囲気ピッタリのBGMが重なり、さらにその効果を引き立てるのに似ています。

 CSでは、アナウンサーの集中力もさらに高まります。一試合の実況を終えた後は、心地よい疲労感も感じます。そしてCSを通じて日に日に高まる応援のボルテージが、日本シリーズで頂点に達します。

 球団の思惑などは別として、ファンの方一人ひとりがここまで懸命に、心からの声援を送る舞台になったCSは、プロ野球の盛り上がりに大きく寄与していることは間違いありませんし、あの雰囲気での声援は、ファンの方にとっても得難い経験だと思います。

 余談ですが、私の場合、入社してからドラゴンズが優勝するまで9年かかりました。

 この間、駆け出しとして日々、実況の研鑽を続けていたわけですが、東京キー局のベテランアナウンサーから「自分が担当しているチームが優勝争いをしないと、実況は本当の意味でうまくならない」と言われたことがあります。

 担当チームの優勝など、自分の力だけでは何ともならないので「そのようなことを言われても……」という気持ちでしたが、1999年の優勝、その後の優勝やクライマックスシリーズ、日本シリーズでの実況を通じ、この言葉を改めてかみしめました。

 もちろん普段から一球一球集中して実況してきたつもりでしたが、実際初めてこうした試合の実況に携わると、集中力というのか、試合にのめりこむというのか、それまでには味わったことのないテンションになると同時に、試合の重要性からより求められる冷静さを併せて研ぎ澄ますという経験をしました。

 この経験が翌年以降の実況でも場面、展開に応じたしゃべりにつながりました。

 やはり実況とはスタンドのお客さんも含めた「ライブ」なのです。コロナ禍の「無観客試合」の実況がいかにつらかったか、その真逆の最高の舞台です。

 今年の試合もあとわずか。スタンドも大いに盛り上がって最高の試合を届けてもらいたいです。

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。現在、バンテリンドームナゴヤのDAZNドラゴンズ戦実況、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)などに出演中。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。