昭和のミステリー「無尽蔵事件」で浮上した「ワゴン車から滴る腐敗汁」の正体…骨董店主の失踪に“男性従業員”は関与したのか

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別件で逮捕

 Yさん失踪後、高級外車を買うなど、急にZの金回りがよくなった理由はどこにあるのか――調べてみると、骨董店の商品を在庫一掃で投げ売りしたり、Yさんの部屋にあった物を勝手に持ち出して、店で売ったりしていることが分かった。どうも店の営業のためではなく、自分で使う金をねん出するために、売りさばいているのではないか……。

〈この中で、4月には大商いがあったことも分かった。東京国立博物館に『胎蔵界曼荼羅』という仏画を1200万円で納入していたのだ〉(「週刊新潮」2004年9月16日号)

 代金の1200万円は4月10日、Yさんの口座に振り込まれていた。Zは同月中旬、895万円を勝手に引き出していたことが分かる。殺害されているとの見方は強くはあるものの、2月末から行方が分かっていないYさんの安否を確認することが最優先であり、事情を知っていると見られるZの身柄を確保することは急務だった。

 捜査第一課がZを横領容疑で逮捕したのは、昭和57年12月4日夜のことだった。

 同年4月、池袋署に届けを出した際には、Yさんについて「仕事が嫌になって家出したようだ。外国に行ったかもしれない」などと、具体的な国名まで挙げていたZだが、取引先には「(Yさんは)外国で親しい女性ができて当分、帰ってこない」「近いうちに店は自分が引き継ぐ」などと述べていたことも分かっていた。

〈三年ほど前から、横浜の家族のもとにはほとんど帰らず、都内の女友達の家などを転々。妻との間で、離婚の調停を進める一方で、西ドイツ製の高級車BMWを女友達に買わせて乗り回したり(略)、高級マンション暮らしをするなど、派手な生活ぶりだった〉(朝日新聞1982年12月5日付)

 調べに対し、商品を売却していたことは素直に認めたが、その理由については「店員を放り出したまま所在が分からなくなり、給料をもらえないから」などと述べた。横領についての調べは特に問題なく進んだが、捜査第一課の“本命”はあくまでYさんの行方である。

 逮捕にあわせ、Zの関係先や、Yさんの自宅にも家宅捜索が行われていた。特に自宅では鑑識作業が入念に行われた。というのも、殺人犯捜査9係では、Yさんが殺害されているとしたら、その現場は自宅だろうと読んでいたからである。

ついに自供

 しかし予想に反し、Yさんの自宅の鑑識作業を徹底しても毛髪、血液など体液痕、また血液などの飛沫痕といった、「殺害」に結び付く有力な物証は何も出てこない。押し入れ、浴室、トイレはもちろん、床下や屋根裏をはがしても何も出なかった。

 殺害現場は、この部屋ではないのか? 捜査指揮官・田宮の述懐である。

〈「こうなると、取り調べに頼るしかない。現場のキャップである寺尾が調べを担当しました」〉(前出「週刊新潮」より)

 通常、捜査第一課の調べはベテランの警部補に任されることが多い。だが、この事件では殺人犯捜査9係長の寺尾正大警部がZを取り調べることになった。Yさんが不在の間、資産管理を担うべきZが自身の借金返済に店の金を充てた理由は何か。また、Yさんが戻れば横領行為はすぐに露見するのに、こうした悪事を繰り返していたのは何故か――寺尾係長の理詰めの質問に、逮捕から1週間ほど経過した夜、Zはとうとう落ちた。

〈(Yさんは)この世にいません。私が殺しました。2月24日、(骨董店の)店内で、Yさんからいつものように肉体関係を求められた。私はその日、どうしてもそんな気分になれず〉(同)

【第3回は「遺体なき殺人『無尽蔵事件』公判を前に“伝説の捜査1課長”が打った布石…一筋縄ではいかない容疑者の取り調べを“あえて素人警部に担当させた”驚きの理由」

デイリー新潮編集部

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