なぜ日本人は「香水」より「無臭」を好んできたのか…赤バン、8×4、シーブリーズ…「制汗剤」でふり返るニオイ消費の半世紀史

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 汗ばむ季節になると、改めて思う。日本人は「いい香りをつける」より、「ニオイを消す」ことに、お金も技術も注いできた。

 香水、つまりフレグランスの年間市場は約575億円。制汗剤、いわゆるデオドラントはおよそ500億円。市場規模だけ見れば肩を並べているようだが、両者の歩みはまるで違う。現代日本の大衆消費という視点に立てば、 香水はようやく若年層にも浸透し始めた“ほのかな楽しみ”であり、制汗剤は半世紀かけて日本人の身だしなみに組み込まれた“生活必需品”なのだ。

 制汗剤の商品開発にも携わってきた経験を交えながら、業界では長らく「香水砂漠」と呼ばれてきた国がなぜ制汗剤大国になったのか、そして今なぜ香りが静かに復権しているのかを読み解いていきたい。

同じ「体質」が、正反対の文化を後押しした

 まず押さえておきたいのは、日本人には体臭が強く出にくい遺伝型の人が多い、という生物学的な傾向だ。

 耳垢が乾いているか湿っているかを決める遺伝子「ABCC11」は、ワキのアポクリン腺の活動性、つまり体臭の強さとも関連していることが研究で確認されている。日本人を含む東アジア系は「乾いた耳垢」の型の保有率が世界でも高く、相対的に体臭が強く出にくい人が多い。

 欧米やアフリカ系では体臭の強い型が多数派で、彼らにとってデオドラントは“エチケット以前の必需品”だ。実際、世界的な市場調査会社の調査によると、欧米では使わない人が少数派であり、日本では4割は「使わない」と出ている。

 とはいえ、この差を体質だけで説明するのはちょっと言葉足らずだ。使用率の低さには体質だけでなく、日常的にデオドラントを使う文化が欧米ほど根付かなかったことも影響している。

 興味深いのは、香水と制汗剤で正反対の道が選ばれた点だ。

 欧米ではデオドラントと香水の双方が発達し、香りを積極的に楽しむ文化が育った。一方の日本は「ニオイそのものを抑え、無臭に近づける」方向を選び、香りを足す香水ではなく、無香タイプの制汗剤に向かった。香水と制汗剤は、いわば同じ親から生まれた、まるっきり性格の違う双子なのである。

「無臭こそ最も好ましい」という価値観は、日本人の生活そのものに根ざしている。毎日入浴し、洗濯頻度が高く、清潔感を何より重んじる。満員電車の“近すぎる他人との距離”からは、「香害」という言葉まで生まれた。香りを纏うことが、時にマナー違反になりかねない国。それが日本だ。

「無香料」であることへのこだわりは今も強い。その象徴的な出来事として、6月29日に「シャボン玉石けん」が一部製造品において、無香料商品にもかかわらず香気成分が検出されたことを理由に自主回収を発表した。香気成分は化粧品に使われるものであり人体には無害。それでも自主回収するのが日本なのだ。

 もともと日本には、江戸時代から紅や白粉は薄くつけるのが上品とされる美意識があった。もちろん香道や匂い袋など香り文化は存在したが、それは強く自己主張する香水とは性格が異なる。日本では「香りを足す」より「ニオイを消す」文化が定着していったのだろう。

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