なぜ“天皇陛下の訪韓”は実現しないのか…外務省に宮内庁、官邸の意向も絡む「皇室外交」の知られざる実態

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オランダ・ベルギーご訪問の意味

 6月に予定されている天皇皇后両陛下のオランダ・ベルギーご歴訪は、外務省が描く皇室外交の今後の行方に、実は大きな意味を持っている。

 天皇・皇族の外遊は、世界平和を希求する日本の姿勢を国際的にアピールする重要な手段である。さらに、防衛力を米国に全面的に依存しながら、世界第5位の経済大国へと転落。退潮傾向にある日本の切り札と、自民党政権はみなしている。

 重要度を増す日豪関係の強化に向けて、天皇家の長女・愛子さまの豪州訪問を模索していた高市早苗政権は、皇室の政治利用批判の高まりを懸念して本年は回避する方向となったが、宮内庁関係者は「総理周辺が皇室外交を政権維持のメソッド(有効手段)とみなしていることは確実でしょう」と推察する。

 年明けに打って出た解散総選挙に圧勝したことで、長期政権も視野に入る中、高市首相は当面の目標として、来年9月の自民党総裁の任期満了まで、様々な政策に着手することになるだろう。

 G7(主要7ケ国首脳会談)の一角を占めるEU(欧州連合)の本部があるブリュッセルを首都とするベルギー。EU最大の港であり、NATO(北大西洋条約機構)の軍事物流の拠点でもあるロッテルダム港を抱えるオランダ――両国との絆を深める皇室外交は、NATO脱退をちらつかせ、トランプ関税やナフサショックで世界各国に動揺を与える“ドナルド劇場”に世界が翻弄される中で、外務省が選択した重要な施策だったと言える。現政権が狙う次の一手とは何か。2回に分けてリポートしたい(前後編の前編)。

宮内庁とは温度差

 天皇・皇族による外遊の意義を考えるには、まず「皇室外交」という言葉の意味を正確に理解する必要があるだろう。

 日本国憲法は第4条で「天皇は(中略)国政に関する権能を有しない」と規定していることから、宮内庁は天皇・皇族の国際親善を「外国との交渉や合意」を意味する政治用語の「外交」ではない、との立場をとる。このため「皇室外交」という言葉は、宮内庁では一切使用していない。一方で外務省は皇室の国際親善を「極めて有効な外交手段の一つ」とみなす傾向が強い。前出の宮内庁関係者はこう語る。

「国際親善に対する考え方が、当庁(宮内庁)と外務省で決定的に異なることは事実。いつも板挟みになるのは、外務省で皇室関連を取り仕切る儀典長だと思います」

 儀典長は、天皇をはじめとする皇室のメンバーと外国要人との橋渡しを担い、全責任を負う要職だ。1969年、外務省にありながら省名を冠さない次官級ポストに格上げされた。宮内庁に所属しながら、庁名を冠しない侍従長と似たこうした特別扱いは、戦前の内大臣のような天皇の最側近の一人という立場ならでは、と言えた。

 だが2004年には局長級に再び格下げとなり、このため「外遊先の選定には、外務省を通じて内閣の意向が反映されやすい状況が生まれている」(同関係者)との見方もある。儀典長を支えるのが儀典官室。旧賀陽宮家(現・賀陽家)の当主で、天皇陛下のご学友だった賀陽正憲氏が、宮内庁入庁後に外務省へ出向して所属していたことも、かつてはあった。

 前出の関係者は「外務省さんが国際親善の柱に据えていると思われるのは、最大の同盟国ですから当然でしょうけれども、やはりまずは対米関係です。そして歴史問題を共に抱える中・韓。またドルと並ぶ国際基軸通貨を擁し、G7のメンバーでもあるEUとの関係です。さらには、経済発展が目覚ましいブリックス(BRICS=ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)諸国、なかでも中国を抜いて世界最多の人口を抱えるインドと第7位のブラジルの両国だと言えるでしょう」と話すが、外務省と思いが一致していることもあるという。

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