「飛行機の離着陸時は緊急の連絡が取れない」は日本だから アメリカの驚くべきインターネット事情(古市憲寿)

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「機上では離着陸時に緊急の連絡が取れません。本人は“飛行機に乗るか迷った”と釈明していますが、危機感がなさ過ぎます」。「デイリー新潮」の記事に出てくる「政治部デスク」の言葉だ。イラン戦争の最中、高市総理が石川県知事選の応援に飛行機で行ったことをとがめる趣旨である。

 選挙応援に行くことの是非はさておき、僕が気になったのは前段の離着陸時に連絡が取れない、の部分。最近は機内Wi-Fiが普及してきたが、それでも日本の国内線に乗ると、離着陸時は接続できない。この時代に珍しい完全な「圏外」になってしまう。総理大臣でなくとも、緊急の案件を抱える人にはやきもきする時間だ。

 だがアメリカでは事情が違う。そもそも大統領が民間機には乗らないが、一般人もだいぶ快適なのだ。国内線ではゲート・トゥ・ゲート、つまり搭乗から降機までずっとネットにつながる環境が実現しつつある。しかもそれが爆速。秘密はイーロン・マスク率いるスターリンク。低軌道衛星を用いたサービスによって、約100Mbpsという下手すれば地上よりも快適な速度でインターネットが使えるのだ。これが本当に快適で、スターリンク搭載かどうかで航空会社を選ぼうかと思うほどだ。日系ではZIPAIRが順次導入中、海外ではユナイテッド、ハワイアン、カタール航空あたりが熱心。ANAもViasatという別企業の高速Wi-Fiの導入を進めている。政治家が飛行機に乗っただけで危機感がないと批判されないためにも、一刻も早く日本でも普及してほしい。

 実際は航空法の運用や、セキュリティーの問題は残るものの、離着陸時に緊急の連絡が取れないという状態は過去のものになっていくだろう。飛行機に乗ってから降りるまでずっと働いて働いて働いて働いて働いてまいれるのだ。よかったね、ワーカホリックの皆さん。

 こうなってくると「圏外」は技術的制約ではなく、意志の問題だ。長距離フライトで連絡がつかなかったといった言い訳は利かなくなる。ただし今なら「ドコモだから連絡がつかなかった」は結構いけるかもしれない。この数年、都市部を中心に回線がつながりにくい状況が続いている。

 さて、「圏外」のない世界はディストピアだろうか。そうは思わない。東京―ニューヨーク間の14時間は「失われる時間」ではなく「邪魔が入らない14時間」に変わる。「ZIPAIR先行公開」みたいな映画ができるかもしれない。スターリンクは、機上に限らず世界中から圏外をなくそうとしている。ウクライナ戦争では前線部隊の通信インフラとして活用されたし、アフリカの農村だろうが高速でネット利用ができるようになる。ただし海中や地下、トンネル内はカバーできない。中国やロシアは未認可だが独自の衛星システムを整備中だ。

 ちなみに高市総理が危機感がないと批判されてまで応援に駆けつけた馳浩さんは落選している。スターリンクが普及していても結果は変わらなかっただろう。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『誰の味方でもありません』『平成くん、さようなら』『絶対に挫折しない日本史』など。

週刊新潮 2026年4月23日号掲載

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