黙秘権が多用され、加害者は“黙り得”という現実 名古屋主婦殺害、被害者の夫が憤慨 「遺族をさらに傷つけるつもりか」

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「お前ら家族全員で遺族をさらに傷つけるつもりか」

 安福容疑者は事件発生時、夫とまだ小さかった息子2人と共に暮らしていた。そんな土曜日の白昼、刃物を手に高羽さんの自宅へ向かい、奈美子さんの首を複数回刺して殺害。その際に手にけがをしている。当時、捜査に関わっていた愛知県警の元幹部が語る。

「犯人は現場のアパートから逃走した際、約500メートルにわたって1メートルほどの間隔で血痕を残しています。相当の出血量です。法医学の専門家を現場に連れて行き検証してもらったところ、縫合を伴う治療を必要とするけがで、病院に行かないと治らない可能性があったと。でも安福は病院に行っていないみたいだね」

 安福容疑者は事件後、家族や周囲には事件のことを話していなかったというが、それだけのかげをしていたら、気付かれる可能性もあっただろう。高羽さんが訝(いぶか)しげに語る。

「安福の夫が、仕事で単身赴任とかしていたのであれば、けがに気付かなかった可能性はあるでしょう。でも少なくとも子供は気付くはず。その時は母親(久美子容疑者)から、例えば『包丁を使っている時にけがした』とうそをつかれていたとしても、今は大人です。彼らも26年間母親からだまされ続けたことになるわけだから、今回の逮捕を受け、遺族に償ったらどうかと説得をすべきではないのか。母親がそんなひどい犯罪に関わり、黙って生きてきて、容疑まで認めたのに、お前ら家族全員で遺族をさらに傷つけるつもりかと問いたいです」

「なぜ」の二文字が……

 黙秘権――。刑事手続において、被疑者や被告人が自身の不利になる供述を強要されない権利であり、憲法第38条第1項にこう定められている。

〈何人(なんぴと)も、自己に不利益な供述を強要されない〉

 これは裁判だけでなく、捜査機関による取り調べの段階から行使することが可能だ。無罪推定の原則により、被疑者や被告人は有罪が確定するまでは「罪を犯していない人」として扱われなければならない。ゆえに無罪か有罪かを争う場合、黙秘権は、自白の強要による冤罪の被害に陥らないための“防御手段”として認められているのだ。

 しかし一方で、容疑者が犯行を認め、客観的証拠が十分にそろっている今回のような事件において黙秘権を行使するのは、いくら憲法で保障されているとはいえ、被害者や遺族にとっては理不尽以外の何物でもないだろう。

 今回の事件現場となったアパートに残る血痕から採取されたDNA型は、安福容疑者のものと一致しており、犯人である蓋然(がいぜん)性は客観的証拠からも極めて高いと言わざるを得ない。

 公判が開かれても安福容疑者は沈黙を貫くのか。あるいは口を開くのか。高羽さんが語る。

「これだけ犯人であることが明らかなのに、なぜ黙秘するのか。恥ずかしくて言えないような、裁判で不利になる動機があるのではないか」

「反省していない」とみなされれば、黙秘はかえって公判で被告人に不利に働く可能性がある。その上での黙秘。「なぜ」の二文字が、高羽さんの頭の中に今もこだましている。

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