「映画泥棒」に「マナーCM」で15分…シネコンに行くたびに感じる“映画の本編が始まるまで長すぎる問題”には理由があった
4種類ある、上映前の映像
「本編前に上映される映像は、大きく分けて、4種類あります」
と解説してくれるのは、ある映画興行会社のスタッフである。
「シネアド(企業CM)、トレーラー(新作予告編)、マナームービー(鑑賞マナー喚起)、会員制度などの自社広告――の4つです。このうち、映画館は、直接収入になるシネアドをなるべく入れるようにしています。まず、ここで、ある程度の長さを感じてしまいます」
「シネアド」は、正式な上映開始時間になると、トレーラーなどの前に、最初に流すことになっている。
「たとえば、“この階段を上るのが私の夢だった”――結婚式場〈代官山 鳳鳴館〉。“2050年、CO2排出ゼロへ”――エネルギー会社〈JERA〉などのCMです。映画館はカップルが多いので、結婚式場CMは効果的です。JERAは、TOHOシネマズと提携して、JERAサンデイという割引クーポンを発行し、環境問題への関心を喚起しています」
ふだん、シネコンに行かない方は、この2社の名前は、聞いたことがないかもしれない。
「そのほか、紙兎ロペの〈auスマートパスプレミアム〉も、流れていますね。これもかなりの大量出稿です」
シネアドは、時期や地域、作品によって、様々な企業のものがあるという。
「今年の夏、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』上映前に、〈清泉女子大学〉の15秒シネアドが流れました。ただし、TOHOシネマズ池袋と川崎の2館で、2週間だけだったので、知らないひとも多いと思います。また、数年前には、実写版『鋼の錬金術師』上映前に、〈古河機械金属〉の30秒シネアドが流れ、“金属つながり”ということで、話題になりました。ただしこれも、新宿バルト9とグランドシネマサンシャイン池袋の2館のみで、2週間限定でした」
もともとシネアドは、“地域限定”であり、これこそがシネアドならではの特徴でもあった。
「むかしから、地域限定シネアドは、映画館でなければできない、独特な宣伝ツールでした。たとえば、新宿歌舞伎町に映画館が林立していた時代は、どこでも〈サウナ・レインボー〉のシネアドを流していたものです。中野、高円寺あたりの中央線沿線の映画館では、中野駅北口にあった〈サワノ眼鏡店〉のシネアドがおなじみでした」
日本でテレビ受像機が一般家庭に普及するのは、1959年の皇太子(現・上皇)ご成婚パレードがきっかけだが、それ以前は、新聞・ラジオとならんで、映画館で本編前に上映される「ニュース映画」も、重要なニュース・メディアだった。
「新聞社ごとに、ニュース映画製作会社をもっていて、最大手は、全国の東宝系映画館で上映されていた朝日新聞系の〈日本ニュース映画〉でした。名古屋の〈中日ニュース〉も、関東圏の映画館を席捲していました。ニュース映画は戦前からあり、特に戦時中は、大陸の戦況を伝える重要なメディアでした。真珠湾攻撃も、忠犬ハチ公の銅像建立も、また戦後の力道山も、みんな、ニュース映画で知ったものです。これらは、最短3分から、最長で10分近くまであり、時には、2~3本が上映されることもありました。むかしも、上映前の映像が多かったのです。しかしニュース映画は、すべて、1980年代後半あたりに終焉を迎えています」
これらの出稿料金が映画館の収入になってきたわけだが、ではいったい、現在は、いくらくらいなのだろうか。
「シネアドの出稿料金は、時期や地域、作品、館数やスクリーン数、契約本数によって、実に様々なので、一概にいくらとは、いえません。しかし、一般的なケースとして、東京首都圏で30秒を2週間、流したとすると、1スクリーンあたり30万円前後が相場だと思います。これに映像製作費を加えると、総計100~300万円前後の予算が必要になるでしょう」
いまはシネアド専門の広告代理店や、製作会社もあるそうで、今後、企業シネアドは、ますます増えるかもしれない。
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