年末年始に“劇場で観たい”おとなのための「海外映画」傑作ベスト3…見逃せない邦画もご紹介!

エンタメ 映画

  • ブックマーク

 この年末年始は、カレンダーの関係で、長めの休みとなりそうだ。その間、映画館で、ゆっくりと新作映画を楽しむ方も多いだろう。しかし、昨今のシネコンは、アニメーションや若者向けの映画で占領されており、どうも、おとなが落ち着いて鑑賞できる映画が少ないと感じている方も多いと思う。

 そこで、つい見落とされがちな、しかし、おとなの鑑賞に堪えうる海外映画ベスト3を、ご紹介しよう。

 その前に――公開後、しばらくたっているものの、根強い人気があり、いくつかの劇場で“越年上映”が決まっている、お薦めの邦画の佳作を2本、ご紹介する。

「兄を持ち運べるサイズに」(中野量太監督、2025)

 日本映画には、葬儀を題材にした名作が多い。「生きる」(黒澤明監督、1952)、「お葬式」(伊丹十三監督、1984)、「おくりびと」(滝田洋二郎監督、2008)等々。2026年2月公開の「ほどなくお別れです」(三木孝浩監督)も、葬祭プランナーが題材のようである。

 本作も、そんな“葬儀”映画の流れを汲んでいるようではあるが、ひと味ちがう。

 原作は、翻訳家・村井理子さんの“実話エッセイ”『兄の終い』(CEMH文庫/CEメディアハウス)。子どものころから自分勝手で、おとなになってからもカネをせびられるなど、ひたすら振り回されてきたダメ兄(オダギリジョー)が、東北の町で急死した。仕事で多忙な翻訳家の理子(柴咲コウ)は、夫に息子たちの世話を頼み、「4日間で帰るから」と、かの地へ向かう。この4日の間に、兄を荼毘に付し、アパートの整理などを済ませるつもりだ。

 東北の町で理子は、兄と離婚した元妻(満島ひかり)と7年ぶりに再会する。この元夫婦の間には、姉(中3)と弟(小4)、2人の子どもがいた。長女は元妻が引き取って一緒に暮らしている。長男は父であるダメ兄と2人で暮らしていたが、いまは児童相談所に保護されている。斎場での見送りは、理子、元妻、2人の子どもの計4人のみだ。

「この映画が通常の“葬儀”映画とちがうのは、理子にとっても元妻にとっても、兄は、さんざん迷惑をかけられてきた〈係累〉(煩わしい親族)だったという点です」

 と解説してくれるのは、ベテランの映画ジャーナリスト氏だ。

「それだけに、どこかホッとした気持ちもあるものの、やはり、肉親であり元夫婦です。懐かしくもあり、寂しい思いも湧き上がる。ゴミ屋敷だったアパートを整理したり、弟の行く末を話し合ったりしている間に、彼らの間には、不思議な感情が湧き上がってくる、そのあたりの微妙な感じが、とてもうまく描かれています。タイトルの『兄を持ち運べるサイズに』とは、いうまでもなく荼毘に付して骨壺におさめることですが、原作『兄の終い』のなかにあるフレーズで、脚本も書いた中野監督は、よくこの部分を見つけてタイトルにしたなあと、感心しました。ひとりぼっちになってしまった小4の弟がどうなるのかも、見どころのひとつです」

 時折、理子の前に平然と“よみがえってくる”兄・オダギリジョーが絶妙な味わいを見せる。

「おそらく多くの方々にとって、口には出しにくいが、多かれ少なかれ〈係累〉ともいえる親族がいるのではないでしょうか。もう長年、会っていない。できれば、いまさら関わりたくない。それでも“家族”なわけで、ではいったい、“家族”とは、何なのか――『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)や『浅田家!』(2020)などで、この問題を独特な視点で描いてきた中野量太ならではの、到達点のひとつだと思います」

 ロケ地となった宮城県多賀城市や塩釜市などの、どこか懐かしい風景もふんだんに登場する。年末年始に、ちょっと考えながら観て、すこしホロリとさせられる、落ち着いた映画である。

次ページ:「風のマジム」(芳賀薫監督、2025)

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[1/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。