年末年始に“劇場で観たい”おとなのための「海外映画」傑作ベスト3…見逃せない邦画もご紹介!

エンタメ 映画

  • ブックマーク

「風のマジム」(芳賀薫監督、2025)

 2025年9月に公開以来、すでに3カ月超。それでも日本のどこかの劇場で上映が続いている、隠れたロングラン・ヒット作である。

 こちらも実話をもとにした同名小説(原田マハ著、講談社文庫)が原作である。舞台は沖縄。伊波まじむ(伊藤沙莉)は、通信会社の契約社員。新規事業の社内コンペに、沖縄産ラム酒の製造販売プロジェクトを提案しようとする。「まじむ」とは、沖縄の方言で「真心」を意味するという。

「この設定がうまくできています(といっても実話なのですが)。ラム酒は、中米カリブ海あたりが原産といわれている蒸留酒ですが、原料がサトウキビなんです。日本でサトウキビといえば沖縄や奄美が主な生産地ですが、なぜか沖縄ではラム酒はつくられていなかった。そこで、初の国産ラム酒製造を提案し、地元産業に育てることを目指すのです」

 しかし、肝心のサトウキビ農家が、まったく乗ってこない。いまの砂糖生産でもう十分だというのだ。そのうえ、社内コンペでは強力なライバル企画が立ちはだかる。

「これらの障害を、正社員ではない彼女が、いかにして乗り越え、コンペ優勝~実現にこぎつけるかが描かれるわけですが、なんといっても、NHK朝ドラ『虎に翼』で大人気となった伊藤沙莉の、“自然な熱演”が見事です。この映画がロングランになった理由のひとつは、彼女にあると思います。特に、南大東島での説明会で、農園主たちから拒否され、泣きたいけどここで泣いたら負けだ――という表情で耐えるシーンは名場面で、こちらが先に泣きそうになりました」

 この映画は、周囲を固める脇役たちも見事だ。

「豆腐屋を営みながら、まじむを支えて応援するおばあ(高畑淳子)、仕事に熱心なあまり、まじむと衝突するクールな女性上司(シシド・カフカ)、まじむにラム酒に関するアドバイスを授けるバーのマスター(染谷将太)など、安定の配役です」

 最近の映画は、伏線回収が見事だとか、ラストの解釈を観客に委ねるとかいう作品が多い。本作は、それらとは、まったく逆で、(実話だけに)結論はすでにわかっている。ひさびさに観る、“ふつうの映画”ともいえる。よって落ち着いて観ていられるが、それでも、伊藤沙莉の演技の見事さもあり、途中ではハラハラさせられる場面が何度もある。

「まじむは契約社員なので、どうしても正社員とは別に扱われてしまいます。そこからいかにして這い上がるかを描く、女性の自立ストーリーでもあります。しかし、観ているうちに、性別や立場のちがいを超えて、諦めないことの大切さが強調され、勇気がわいてくるような痛快さもあります。年末年始に、世代を超えて家族みんなで観るにふさわしい映画です。上映時間も105分と適度。特に、中高生には、ぜひ観ていただきたい」

 なお、モデルとなった南大東島のラム酒製造所は、現在、〈株式会社グレイス・ラム〉として独立会社となっている。商品名は〈COR COR〉(コルコル)ブランド(オンライン販売あり)。伊藤沙莉が演じた契約社員・金城祐子さんは、現在、同社の「代表取締役」である。

次ページ:「落下の王国」4Kデジタルリマスター版(ターセム監督、印・英・米合作、2008/25)

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[2/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。