ポケベルに来た「88981064」のメッセージ…送り主は恋人じゃない まだ終わらない先輩女子の“影”【川奈まり子の百物語】
安らかに
B先輩の親しい友人だったという女性は、今は東北地方の大学2年生とのことで、穏やかな目をした物静かな雰囲気の人だった。
昼下がりの病室にA子と訪れた彼女は、手短に自己紹介を済ませて、さっそく本題に入った。
「Bさんの霊は今ここにはいませんが、“道”がついてしまっています。この通り道を塞ぐには、彼とA子さんが気を一つにして、安らかにお眠りくださいとお祈りしてください。もう亡くなった人として扱えばBさんは現れなくなります」
利幸さんとA子さんは顔を見合わせた。
「そんな簡単なことでいいんですか?」と利幸さんは訊ねた。
「はい。彼女は死者なのだと深く理解するために祈ってください。悼むとか供養するとか、お坊さんがお説教するでしょう? あれですよ。仏教に限りません。神道でも何でもいいと思います。ベッドの下に盛り塩がありますよね? Bさんが生きていたら浄め塩の対象にならないわけです。彼女は死んでいて、此の世は生きている私たちの世界ですから、そこを強く意識してください」
A子が訊ねた。
「あなたもそうしたんですか? B先輩を悼んで祈ったら、幽霊が出なくなった……?」
その人は謎めいた微笑を見せて「時には」と答えた。
「私にとっては大切な友だちでしたから」
お経も祝詞もいらないということだった。
それから3人で瞑目してB先輩の霊の安寧を祈った。
「もういいでしょう」と言われたのは、ほんの5分ほど後のことだった。
――それきり彼らはB先輩に煩わされていないのだという。
「B先輩のご友人が帰るとき、病室のドアの外で誰かが彼女を待っているのがチラッと見えました。それがB先輩の幽霊だったとしても、もう僕には関係ないのだと思いました」
数年後、利幸さんとA子は結婚して今に至っている。
「B先輩のお蔭かもしれません」と彼は言う。
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【記事前半】では、利幸さんとA子さんカップルが、交際を断ったB先輩から受けた数々のつきまとい行為について語られる。
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