ポケベルに来た「88981064」のメッセージ…送り主は恋人じゃない まだ終わらない先輩女子の“影”【川奈まり子の百物語】
ノックの主は
目が覚めるか覚めないかの夢うつつの刹那にノックの音が聞こえ、3日も続けてこの夢を見た結果、彼は、もしや現実にノックされているのではないかと思うに至った。
想像するのも恐ろしいことだが、B先輩の霊が病室まで追いかけてきたのかもしれないと考えたのである。
ベッドの下の盛り塩の効果で、室内に侵入できずにいるのか……?
そう思うそばから、彼は、いや、こんなのは夢に過ぎないと考え直すことを繰り返したあげく、とりあえず次に寝たときは目が覚める瞬間を強く意識してみることに決めた。
自己覚醒法といって、寝る前に起きたい時刻を念じることによりその時間に目を覚まる催眠暗示の手法がある。副交感神経を意志の力で過緊張状態に置くことで成せるテクニックであり、安眠が得られなくなるので毎晩やるものではないが、生真面目で責任感の強い人には自ずと出来るようになってしまう場合が少なくない。
利幸さんがまさにそれにあてはまった。
昔から、たとえば5時に起きようと強く念じれば、5時に起きられるたちだったのだ。
その性質を利用して、夢でベッドに横たわると同時に覚醒しようと試みたのである。
――彼は夢でB先輩に追われて病室のベッドに逃げ込むなり、すぐさま飛び起きた。
試みが成功した。次に彼は怪我が痛む体を引きずってドアの方に急いだ。
そこでノックを待ち構えたところ、一拍置いて、「トンッ」といつもの音が。
体に震えが走った。ドアの向こうに誰かがいる!
彼は恐るおそるドアを開けた。
そして廊下の左右を見渡したのだが、B先輩の姿はなく、気の早い夏の朝日が白々と照らす中、顔を見知った看護師が彼を振り向き「おはようございます」と微笑みながら挨拶しただけであった。
「ノックしましたか?」と彼はその看護師に訊ねた。
看護師は「いいえ」と、やや不思議そうな表情で彼に答えた。
既視感
時刻は6時で、朝食まではまだ間があり、病室のベッドに戻ると手持ち無沙汰だった。
そこで彼はポケベルを手に取ってみて……ギョッとした。
A子からメッセージが届いていたのだ。
ひと目見た途端にうなじの毛が逆立った。
「88981064(早く会いたいよ)」
事故に遭った朝に送られてきたメッセージ。
既視感を覚えつつ、彼は急いで病院内の公衆電話からA子の家に電話を掛けて、今朝メッセージを送った覚えがあるか訊ねた。
「ついさっきだよ? 送った?」
「メッセージなんか送ってないよ」と彼女は答えた。
「本当に? 早く会いたいって送られてきたんだ。まさかとは思うけど、B先輩……?」
電話の向こうから、かすかに息を呑む気配が伝わってきた。
意を決したようにA子が言った。
「今日、そっちに人を連れていく」
「いいけど、誰?」
「B先輩のお葬式に呼ばれた人」
「もしかして探してくれたの?」
「うん。何があったのか確かめたかったから。昨日会って話してきた。その人、ちょっと霊感があるみたいだから、B先輩を説得してくれるかもしれない」
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