ポケベルに来た「88981064」のメッセージ…送り主は恋人じゃない まだ終わらない先輩女子の“影”【川奈まり子の百物語】

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【前後編の後編/前編を読む】 美貌の先輩がストーカーに豹変 尾行、番犬に毒餌、怪文書…男子高校生が受けた異常な「つきまとい行為」とは

 これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。

 地元の有名高校に入学し、英語研究会に入った利幸さん(仮名)は、同級生のA子と、美人だが暗い雰囲気のB先輩の2人から告白される。A子と交際することに決めた利幸さんだったが、これを機にB先輩はストーカー化してしまう。後を付け回すことからはじまった嫌がらせは、徐々にものを荒らすなどエスカレートし、注意を受けたB先輩は退学した。その後、利幸さんとA子は上京し、大学へ進学。交際を続けたがそろって帰省した際の電車内で、A子は「女子トイレを出たらB先輩が立っていた」と言う。だが、母は利幸さんに「実はBさんはずいぶん前に亡くなった」と明かすのだった……。

 ***

「えっ?」

「高校を中退した直後だったそうよ。ご自宅で自殺されてしまったんですって」

「自殺? 本当に?」

「……信じられないよね。最近、あんたの1つ上の学年にお子さんがいた方と知り合って、高校時代の想い出をいろいろ話しているうちに、同じ学年の女子生徒が3年の2学期に退学してすぐに自殺したとおっしゃるじゃない! 高三で退学する子なんてあんまりいないでしょう? だから、もしやと思って『その生徒さんは英語研究会のBさんですか?』と訊いたら『ご存じでしたか』ですって」

「じゃあ、何かの間違いではなくて……?」

「伝聞だけど、たぶん……。1年生の頃からBさんと親しかった生徒さんが親御さんから連絡を受けてお葬式に出られたそうよ。表向きは急病で死んだことにしていたけれど、お葬式のときにお母さんが取り乱して『うちの娘は首を吊って自殺したんです!』って叫んじゃったんだって。それで、だんだん噂が広まって、そのうち私に話してくれた人のお子さんの耳にも入ったみたい。そうしたら、その子は『おもしろおかしく噂していいようなことではないから』って、Bさんのお葬式に参列された生徒さんに事の真偽を問い質したんですって……。そしたら、本当だったみたい。一昨年の秋にお葬式をあげたけれど、四十九日や何かの報せはBさんと仲良しだった子も受け取っていなくて、お墓がどこにあるかわからないし、Bさんの家族はどこかに引っ越して、連絡が取れなくなってしまったのですって」

 父は利幸さんに「俺は、余計なことを話すなとお母さんに言ったんだけどな……。気にする必要はないぞ。何も悪いことはしていないんだ。おまえのせいじゃないよ」と言った。

他人の空似

 そんなふうに慰められても、気にならないわけがない。
 
 利幸さんはB先輩が自死した時期に違和感を覚えて、背筋が凍る思いがしていた。
 
 あの「✕」で彼の名前を潰してあった怪文書が届いたのは、去年の4月だ。
 
 母の話が本当なら、B先輩が自殺したのは前年の秋なのだから、あれをポストに入れたのはB先輩ではなかったということになる。

 その後も続いたB先輩によるつきまといや、それに、なんと言っても今日A子が特急電車の車内で鉢合わせしたことの説明もつかなくなってしまう。

――いや、やはり今日の電車での一件は、A子が人違いをしただけか?

 B先輩が実はとっくに死んでいたのだと知ったら、A子も恐がるだろう。

 彼はそう思ったが、その日の深夜、家の固定電話の子機を使って電話で彼女と会話するうちに、つい、母から聞いたことを打ち明けてしまった。

 案の定、A子は怯えて「そんなはずがない! 信じられない!」と叫んだ。

「じゃあ、私が今日見たのは、やっぱり他人の空似だったのね? でも今までもいろいろあったでしょう? どれも、やったのはB先輩じゃなかったって言うの?」

「僕にも、わからないよ。100パーセント死んだと決めつけるのもどうかと思うし」

「……もしもB先輩が亡くなっていたとして、しかも他に犯人がいなかったら……私の勘違いでもなかったとしたら……電車で遭ったのはB先輩の幽霊?」

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