トランプから「原潜保有」を許された韓国 宿願だが…浮かれていられない“2つの障害”

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日本並みの潜在核保有国になりたい

――具体的には?

鈴置:朝鮮日報のこの記事は、韓米原子力協定を改定し日本と同等の「ウラン濃縮と使用済み燃料の再処理の権限」を獲得しよう、と主張しました。

 韓国には「日本はこの権限を持つからこそ、その気になればいつでも核兵器を開発できる。我々も同様の権限を得て潜在的核保有国になろう」との主張が常にあります。

 北朝鮮の核が戦力化される一方、米国が韓国に甘い顔を見せざるを得なくなった今、一気に「日本並み」を実現しよう、との発想が浮上したのです。もちろん、ウラン濃縮が認められたら原潜の核燃料も自前で調達できるようになり、米国に頭を下げる必要も無くなります。

――韓国はウラン濃縮も米国にお伺いをたてる必要があるのですね。

鈴置:米国からウラン燃料を供給される国は、見返りに米国による規制を受け入れています。特に韓国は厳しく監視・牽制されてきました。核兵器の開発に何度もこっそり取り組んでは、そのたびに米国に阻止された経緯があるためです。

米中角逐の場、フィリー造船所

――韓国の原潜保有を中国は許しますか?

鈴置:10月30日、外交部のスポークスマンが韓国・中央日報の質問に答える形で「中国は事態を見守っている。韓国と米国が核不拡散の義務を誠実に守り、地域の安定と平和に資する行動をとることを中国は期待する」と述べました。外交部のサイト(英語版)で一問一答を読めます。

 いざとなったら「核不拡散」を掲げ、原潜や核燃料の対韓輸出に難くせを付けるつもりでしょう。ただ、「見守る」との発言から考えると、直ちに全力で阻止するつもりはないと思われます。

 もっとも、執念深い中国のこと、どこかでお灸をすえられると韓国は首をすくめています。実は、フィリー造船所はすでに米中角逐の舞台になっているのです。

 中国政府は10月14日、フィリー造船所を含むハンファオーシャンの米国子会社5社に制裁を科すと発表しました。その理由が珍妙で「通商法301条に基づき中国の造船業に不公正な貿易慣行がないか米政府が調べた際に、5社が調査に協力した」からです。要は「米国の造船再建に協力した企業は狙い撃ちするぞ」との警告です。

 トランプ大統領のフィリーズ造船所での韓国原潜の建造構想。中国にいじめられるハンファオーシャンや韓国に対し「負けるな。おれが付いているぞ」とエールを送る狙いかもしれません。であるなら、フィリー造船所はさらなる米中角逐の場となって行くのでしょう。

 注目すべきは米中板挟みになった李在明政権です。中国から殴られることを覚悟して米国での建造を受け入れるのか、あるいは原潜獲得のチャンスを投げ捨てて米国建造を断るか――の岐路に立ったのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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