トランプから「原潜保有」を許された韓国 宿願だが…浮かれていられない“2つの障害”
トランプ(Donald Trump)大統領が突然、韓国に原子力潜水艦の保有を許可した。それは韓国の積年の願いだった。背景と今後を韓国観察者の鈴置高史氏に聞く。
「低濃縮でいいから」とウランをねだる
――トランプ大統領が韓国の原潜保有を認めました。
鈴置:驚きました。盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領以降、韓国の歴代政権は原潜保有を夢見てきました。米国に原潜を持ちたいと訴える政権もありました。厳密に言うと、原潜用の核燃料――20%未満の低濃縮ウランを供給して欲しい、と要望したのです。
通常の原発の燃料は数%程度の濃度に濃縮したウランです。原潜はそれよりも「濃い」ウランを使います。燃料交換の手間を減らすためです。
20%未満の濃縮ウランだと10年間は交換の必要がないとされます。米国などが使う90%といった高濃縮ウランなら、潜水艦が退役するまで半永久的に交換は不要です。
韓国が「20%未満」という縛りを自ら課すのは、高濃縮ウランは核兵器の原材料に容易に転用できるからです。韓国の核武装に冷淡な米国が供給してくれるはずもなかったのです。
原潜保有は核武装の必要十分条件
もっとも米政府は「20%未満」であっても韓国の要求を拒否してきました。原潜導入自体が核武装の準備と見なしたからです。原潜は原子力で推進する潜水艦のことであって、必ずしも核兵器を搭載するわけではありません。
ただ、核兵器を持つ国は、あるいは持とうとする国は原潜が欲しくなるものです。地上発射型の核ミサイルは設置場所が明確なだけに、敵国から先制核攻撃された際、真っ先に破壊されてしまいます。
そこで水面下に潜む潜水艦に核ミサイルを搭載しておき「我が国を核攻撃したら潜水艦から核で報復するぞ」と威嚇することで、敵の先制攻撃を思いとどまらせるのが核の世界の常道です。核報復理論では「第2撃能力による抑止」と呼びます。
もちろん、従来型のディーゼル駆動の潜水艦に核ミサイルを積む手もあります。ただ、ディーゼル型だと時々、外部から空気を取り入れる必要があるため敵に位置を特定されやすい。先制攻撃を受ける時、この潜水艦も同時に撃沈されてしまう可能性が高いのです。
だから核保有国――米露英仏中印は、食料が続く限り連続して潜航できる原潜を持っている。逆に、原潜を持つ国はすべて核保有国なのです。核武装成功を唱える北朝鮮も、原潜を建造中と自称しています。原潜保有は核武装のほぼ、必要十分条件なのです。
核兵器の拡散を防ぎたい米国が、露骨な第2撃能力たる韓国の原潜保有に首をタテに振らなかったのも当然です。それに韓国の要求する20%未満の低濃縮ウランだって、威力は別として核兵器の原材料となり得ると言われています。
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