トランプから「原潜保有」を許された韓国 宿願だが…浮かれていられない“2つの障害”

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日本までが「原潜を造る」

 核アレルギーもあって当面、原潜保有には動かないと見られていた日本。しかし2025年9月19日、防衛省の設置した有識者会議が原潜を念頭に「次世代動力を活用した潜水艦の導入」を提言しました。もちろん、中国の海洋進出に対抗するためです。

 まだ、媚中派の石破茂政権の時の話です。石破氏が政権維持に四苦八苦している隙を見計らって自民党の防衛族や防衛省が動いた感じです。

 10月21日に発足した安保重視の高市早苗政権は、原潜の導入を明確に打ち出しました。自民党と日本維新の会が連立に当たって交わした合意書には「次世代動力の潜水艦の保有を推進する」と明記したのです。

 日本が本気になって原潜の建造に取り組めば10年かからない、と韓国では見ています。日本をライバルと見なす韓国は遅れをとるわけにはいかないのです。

 それに米国で造れば、韓国以上のコストがかかるのは確実です。朝鮮日報の「高濃縮ウラン原潜が最高…核燃料再処理交渉は別途に」(11月1日、韓国語版)によれば、韓国海軍は国産の原潜1隻の建造予算は3兆ウォン(3000億円)と見積もっている。

 一方、バージニア級を米国で建造した場合、保守費用まで含めれば5兆7000億ウォン(5700億円)と跳ね上がります。韓国海軍は原潜は最低4隻配備する計画ですから、それだけで日本円に換算して2兆円以上が必要になります。

焦眉の造船再建

――トランプはなぜ、突然に「許可」したのでしょうか。

鈴置:海軍力――造船能力の立て直しを迫られているからです。台湾有事など、中国と海での軍事衝突の可能性が増すというのに、米国は造船能力が急速に衰えてしまっている。

 商船ベースですが2024年の世界での竣工シェアは0・1%にまで落ち込んでいます。一方、1位の中国は55%と米国に圧倒的な差を付けています。

 そこでトランプ政権は米国の造船業を再生すべく、同盟国である韓国と日本に対し、投資を呼び掛けています。韓国のシェアは28%で2位、日本は12%で3位です。

 米韓が10月29日、トランプ関税への合意に伴い、韓国は総額3500億ドル(53兆円)の対米投資を実施すると合意しました。うち、1500億ドル(15兆円)は造船プロジェクト「MASGA」への投資に充てられます。

 ハンファオーシャンのフィリー造船所も当然、その対象となり、潜水艦建造用の大型ドックなどに資金が投入されるわけです。

 東亜日報の「英豪だけに秘密を明かしていた原潜、韓国も受け入れ…“韓米軍事協力の歴史的瞬間”」(10月31日、韓国語版)はハンファオーシャンの「先端水準の造船技術で支援する用意ができている」「フィリー造船所などへの投資とパートナーシップは両国の繁栄と共同の安保に寄与する」とのコメントを紹介しています。

 フィリー造船所での原潜建造を含む造船プロジェクト「MASGA」は、米国の国際収支も画期的に健全化します。1500億ドルもの投資による金融収支の黒字を期待できるうえ、原潜を輸出する分、貿易収支が改善します。

米国の弱みにつけ込むチャンス

――米国は韓国の核武装を牽制する気は失せたのでしょうか?

鈴置:韓国の核武装の問題は後で考えればよい。それよりも今は、造船産業の再生が大事――と判断したのでしょう。

 そもそもトランプ大統領は日本と韓国の核武装に肯定的でした。1期目に出馬した時も「同盟国は米国に甘えるな。自分で自分を守れ」と主張する文脈の中で「日韓は独自の核を持てばいい」と語っています。安保専門家から注意されたのでしょう、後で「そんなことは言っていない」と否定しましたが。

 それに韓国が原潜を持って潜在的な核保有国になれば、中国の威嚇にも屈しなくなり米国側に残る可能性が増す、との見方もできます。韓国の「離米従中」の原因のひとつは、米国の核の傘が信用できないからです。原潜保有はその特効薬です。

 先に引用した東亜日報の「英豪だけに秘密を明かしていた原潜、韓国も受け入れ…“韓米軍事協力の歴史的瞬間”」。見出しから分かる通り、韓国系造船所での原潜建造は、米国の一線級の同盟国として認められた証拠、と大喜びしたのです。韓国人の「見捨てられる」恐怖を癒す効果もそれなりにあるのです。

 これまた引用済みの朝鮮日報の「高濃縮ウラン原潜が最高…核燃料再処理交渉は別途に」は「米国が韓国に原潜の保有を認めるようになった国際政治の条件を賢く利用しよう」と訴えました。要は、米国の弱みにつけ込め、ということです。

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