「中国系マフィアは日本人を顎で使い…」 特殊詐欺、諸悪の根源は中国政府だった

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日本人はターゲット

 それにしても中国は現金だ。かつてアウン・サン・スー・チーを歓迎し、この時点では少数民族を側面支援したが、今はまた少数民族を攻撃中のミャンマー軍政府を支持しているのである。

 冒頭に紹介した、今春2月に実施されたミャワディの摘発では、中国の強い圧力を受けて動かざるを得なかったタイ警察と協力して「カレン民族軍」が摘発を実行したが、どちらも中国政府からなんらかの見返りを得ていたことは確かだろう。

 タイ警察は、「保護した人々を収容する施設が足りない」という理由で、早々に捜索を打ち切った。「一帯一路」を隠れみのにした中国系犯罪グループの国際犯罪が世界の目にさらされたことで、メンツをつぶされた中国政府が幕引きを図ったものと思われる。国内の被害額もさることながら、中国が詐欺集団を摘発しなければならない事情が「一帯一路」にあったのである。

 とはいえ、詐欺拠点は流動的だ。17年に中国で大々的な摘発キャンペーンが実施され、福建省で特殊詐欺グループが一網打尽になった。19年には吉林省でも大規模な摘発が行われた。しかし犯罪グループの一部はミャンマー、タイ、ベトナム、インドネシアなど、海外へ拠点を移して、特殊詐欺は「国際化」した。

 日本人をターゲットにした特殊詐欺は、東南アジアの拠点を転々としながら犯罪を繰り返している。国連の推計によると、東アジア、東南アジア地区を拠点とした23年の被害額は最大370億ドル(約5兆6000億円)に上る。

中国系マフィアの食い物

 日本人は、特殊詐欺で中国系マフィアの食い物にされている。警察庁の発表によると、昨年10月からの4カ月間に、「闇バイト」を巡る相談を基に全国で保護した事例は合計248件あり、また水際対策を講じて空港で渡航直前に保護したり、渡航先で保護したケースが計10件あった。いずれも約7割は10代~20代で、オンラインゲームで知り合った相手から、「海外で儲かる仕事がある」とカンボジア、ミャンマー、中国、ベトナムなどでの仕事に誘われていたのだ。

 日本の警察当局は、昨年までの6年間にタイ、フィリピン、カンボジア、ベトナムを拠点とした詐欺に関与したとして、合計178人の日本人を摘発した。中国系マフィアの傘下に入っていた容疑者もいた。

 今や、犯罪グループの収入はケシ栽培と麻薬密造を上回り、世界最大規模の特殊詐欺犯罪が最も多い。摘発しても、犯罪グループの一部は逃げ切り、新たな拠点をつくって詐欺行為を繰り返す。さながら「いたちごっこ」の様相を呈しているが、撲滅に向けて国際間の連携と協力の強化が一層重要になっている。

譚 ろ美(たんろみ)
米国在住のノンフィクション作家。東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒、元慶應義塾大学文学部訪問教授。著書に『中国共産党を作った13人』『革命いまだ成らず』『帝都東京を中国革命で歩く』『中国「国恥地図」の謎を解く』など多数。

週刊新潮 2025年10月30日号掲載

「諸悪の根源は中国だった――ミャンマー特殊詐欺 日本人かけ子を顎で使う『中国系マフィア』の真実」より

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