「中国系マフィアは日本人を顎で使い…」 特殊詐欺、諸悪の根源は中国政府だった
突如出現したカジノ
読売新聞(25年7月7日付)によれば、カンボジア東部プレイベン州の道沿いに、突然、巨大な建造物が現れた。高さ数メートルの壁で囲った敷地内には多くのクレーン車が稼働し、人工池の中央にはカジノが建設中で、ゲートをダンプトラックが行き交う。低層のオフィス、宿舎が立ち並び、スーパー、カラオケ、ナイトクラブのほか周辺には中国系の病院もあり、中華料理店では人民元が通用する。
「もとはゴム園の広がるエリアだった。この1年で急速に開発が進んだ」と、地元の建設関係者が語る。地元当局によれば、付近では複数の開発が進み、約5万人の雇用が生まれた。しかし詐欺拠点の疑いがあり、地元は州幹部に立ち入り検査を求めたが、「なにも気にすることはない」と一蹴された。
この記事はカンボジアの特殊詐欺の拠点の様子を伝えたものだが、警察上層部と詐欺犯罪グループがつながっていることがうかがえる。もとはといえば、これらの建物は中国の巨大経済圏構想「一帯一路」による地価高騰や各種ビジネスを当て込んだ中国企業の投資物件だった。それがいつのまにか中国系犯罪グループの拠点と化したのだ。
ミャンマーでもまた、 特殊詐欺は経済発展をうたった「一帯一路」と密接な関係がある。ここで同国が中国系マフィアの犯罪拠点へと変貌していったカラクリを説明するが、そこには複雑な国内事情が絡んでいる。
今回、死刑判決が下った詐欺事件の舞台となったシャン州は、北東で中国・雲南省と、東はラオスと国境を接している。ケシ栽培と麻薬の製造で広く知られ、昔から「ゴールデン・トライアングル」と称されてきた地域だ。
国連薬物犯罪事務所の21年調査によれば、ミャンマー全域の麻薬生産量はおよそ405トン(現在は急増して1000トン超)で、シャン州が82%を占める。第2位は、北部のカチン州で12%だ。
「四大ファミリー」と手を結び
20年当時、ケシの栽培面積は、異常気象により年々減少しており、地元の少数民族武装勢力は収入が減り、弱体化する傾向にあった。少数民族武装勢力とは、古くからその地を支配してきた王朝に仕えた民族の末裔(まつえい)や、伝統文化を守り抜こうとする少数民族の自治集団である。
09年、ミャンマー軍事政権は少数民族武装勢力を国境警備隊としてミャンマー国軍に編入しようと試みた。しかし、多くの武装勢力は拒否した。というのも、国境警備隊になっても政府から給料は支払われず、自力で収入源を確保しなければならなかったからだ。
各地の少数民族はケシ栽培と麻薬の製造で軍事費を賄い、自給自足を強いられる。ミャンマー軍事政権と「国境警備隊」との間でも対立が深まり、衝突するようになった。そんな折、少数民族武装勢力の救世主となったのが、中国の「一帯一路」計画だったのである。
「一帯一路」が始まったのは17年。中国と中央アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、南米を陸路と海路で結ぶ壮大な計画で、25年現在の参加国は約150カ国に上る。
ミャンマー・中国間の「一帯一路」は、中国の雲南省からミャンマー国内を南北に縦断し、インド洋岸の深海港に達する長距離輸送ルートの建設計画で、「中国・ミャンマー経済回廊」と呼ばれている。16年、ミャンマー軍政府の国家顧問兼外相(当時)のアウン・サン・スー・チーが中国を訪れ、経済協力区を建設することで合意し、計画に弾みがついた。
「目玉は、雲南省瑞麗(ずいれい)と国境を跨いで、シャン州コーカン自治区の町につくられた国内最大規模の『経済協力区』だった」
と、現地に詳しい事情通はいう。
「経済協力区」となったことで、トラック輸送による1日当たりの両国の貿易取引額は約344億ドルに上り、ミャンマー最大の国際貿易都市に発展する。
勢い、中国から投資家や金融業者が続々とやってきて、当地を実効支配する少数民族武装勢力・コーカン族の「四大ファミリー」と組み、土地開発、工業団地の建設、ホテル、カジノなどのリゾート施設を造っていった。
中国から多くの観光客が押し寄せ、ホテルとカジノは活況を呈し、風俗店が軒を連ねる繁華街のラオカイ(老街)は、コーカン族の武装集団が治安維持にあたった。
この「四大ファミリー」の一部が利権を求めてミャンマー国軍と手を結び、さらには「明」ファミリーとも手を組んで、各種犯罪に手を染めるようになったのである。
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