穏やかな再婚生活に忍び寄る“かつての家族”の暗い影――息子への嫉妬に気づいた51歳夫が怯える「過去からの逆襲」
知ってて近づいたのか?
うちの息子をたぶらかすなんてどういうことだ、結婚はやめてほしい、きみのせいで僕の最初の結婚生活は破綻した、離婚しなければ美和子だって元気だったかもしれないじゃないか……。言いたいことはたくさんあった。だがもっとも聞きたかったのは、自分の息子だとわかっていて近づいたのかどうかだ。
「知らなかったと優希は言いました。それどころか『私が近づいたわけじゃない、たまたま私がスペインの食材を輸入する会社に勤めているので知り合っただけだ』と。まさか秀さんの息子だとは思わなかったとも。ただ、長男と私的な話をするようになって、感じるところはあったようです。それでも『今日、顔を見るまでは確信がもてなかった』って。皮肉なものねと彼女は言いました。オレは息子に嫉妬している……そう思いました。神様はいたずら好きなのかもしれないなあと僕がつぶやくと、優希は僕の手に手を重ねてきました」
背中がぞくっとした。優希さんは10代のころから、妙な色気のある少女だった。それが今、大人の妖艶さを身につけ、さらに色気を増していたのだ。ビクッとしたのがわかったのだろう。優希さんは、「あのころ、私は秀さんに本当に抱いてもらいたかったのよ」とハスキーな声で囁いた。
「最初の男がどういう人かは大事だなと今でも思ってる。私は男運がなくてと、なんだか僕に責任があるような言い方をされました。ムッとしたけど彼女の顔を見ると、色っぽい笑顔と濡れた目がこちらに向けられている。この場から去らなければいけないと思いつつ、足が動かないし言葉も出ない」
抱いてくれたら、別れるわ
息子と別れてほしい? と優希さんは聞いた。「悪いけど」と彼は言った。じゃあ、秀さんが責任とってよと優希さんが顔を覗き込んできた。
「なりゆきに任せるしかなくなってしまった。あの頃、はねのけられたのは相手が未成年だったから。それだけの理由です。大人になった優希をはねのける理由がなかった」
秀さんが抱いてくれたら、私は息子くんと別れるわと優希さんは言った。そんな言葉に乗せられてはいけないと頭の中で赤信号が点滅しているのに、秀顕さんは優希さんの肩を抱いてタクシーに乗り込み、ホテルへと行った。
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