穏やかな再婚生活に忍び寄る“かつての家族”の暗い影――息子への嫉妬に気づいた51歳夫が怯える「過去からの逆襲」
「おとうさんに、会ってほしい人がいる」
二度目の結婚生活がこれほどまでにうまくいったのは、秀顕さんが柔軟であり、恵里さんがおっとりしたタイプだったからだろう。恵里さんの親が適度な距離感を持ちながらも見守ってくれたことがなにより大きかったと秀顕さんは言う。義両親が理想的な夫婦関係を築いていたから、ふたりを目標として生きてこられた、と。幸せなことだったとしみじみと言ったあと、彼は「ところが」と前のめりになった。
「半年ほど前、長男が『おとうさんに、会ってほしい人がいる』と言いだしたんです。おかあさんに言ったらきっと反対されるから、まずおとうさんに会ってもらいたいと。つきあっている人がいるのは薄々気づいていましたが、まだ23歳、就職したばかりですからね。結婚には早いぞと冗談交じりに言ったら、長男は複雑な表情だった。わけありなのかなと思いながらも、個室のレストランを予約しました」
自分だって7歳年上の子どもがいる女性と、25歳で最初の結婚をしたのだから、何があっても反対はできないよなと思いながら、秀顕さんは予約したレストランに行った。
「ふたりはもう来ていました。僕に背を向けて座っていた女性が、長男に促されて立ち上がり、振り返った瞬間、僕はくらくらっとめまいがしました。優希だったんです」
優希さんから聞かされた「その後」
15歳だった優希さんの面影が、その顔にはあった。「というか、優希の顔はどんなに年とっても忘れませんよ」と秀顕さんは苦笑する。
素早く計算したら、優希さんは長男より18歳年上だ。どうしてこのふたりが目の前にいるのか理解できなかった。
「僕、優希さんと学生時代からつきあってるんだ。結婚したいと思ってると長男が言うのを聞いて、『それはいくらなんでも』と絶句してしまいました。『やっぱり無理よ、あきらめましょう。あなたにはあなたにふさわしい女性がいるはずよ』と優希は言って、立ち上がろうとした。いや、ちょっと待ってと言うしかなかった」
何を食べたのか、どんな話をしたのか秀顕さんは動揺しすぎてほとんど覚えていないという。ただ、優希さんが「母は私が20歳のときに亡くなった」と言ったのだけは覚えている。あれからまもなく美和子さんはこの世の人ではなくなっていた。なぜ優希さんは知らせてくれなかったのか。
「ラッキーなことに、食事が終わるか終わらないかのところで長男の友人から連絡があったんです。親友が大ケガをして病院に運ばれたと。その時点ではケガの状態もわからないけど、親友は地方出身だし、当時恋人もいなかった。だから自分が駆けつけるしかないと、長男が言うんです。じゃあ、僕が優希さんを送ろうと言いました。そして優希とふたりで静かなバーへと移動したんです」
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