「雨が降ったせいで」と「雨が降ったおかげで」に違いはあるか…“守備範囲の広い”日本語表現の奥深さ
言葉の守備範囲
上に挙げた「せい」の伝統的な使われ方としては、他にも次の7番のような例があります。
7.樹の影は樹よりも弱々しく、はかないから、そのせいで魅惑的なのではない。そういう局面もあるかもしれないが、それがすべてではない。
(丸谷才一『樹影譚』文春文庫、1991年より。原文は旧かな遣い)
「せい」のあとに「魅惑的」というポジティブな語句が来ていることから、この「せい」についても『日本国語大辞典』にあるような「原因・理由」という包括的な意味で使われていると解釈するのが妥当かと思われます。
今回見てきたように、「せい」と「おかげ」はそれぞれ“守備範囲が広い”言葉であると言えるでしょう。校閲の現場でも、特に文芸作品などにおいて、誤用ではない「せい」「おかげ」に余計な指摘を入れていないか注意する必要があります。
「辞書のせいで、良い校閲の仕事ができた」という一文も、場合によっては誤用とは言えない……日本語は、そして校閲という仕事は本当に奥が深いものです。



