「余生を振り返る」って何かヘン? 校閲のプロが語る怪しい日本語の数々

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「校閲」という仕事をご存知ですか?
 出版社のなかで出版される前の文章をひたすら読み、原稿のなかの誤字脱字、表現の誤り、事実の確認などを行い、原稿の完成度を高め磨きをかける。それが校閲の仕事です。
 検閲や粗探しをしているわけではなく、筆者の持つ「きらめき」を殺さずに、思わぬ所でつまずいて信用を落としたりすることが無いようにサポートし世に送り出す。
 良いものを、世の人が素直に「良いね」と言ってくれるように願って点検をし、磨きをかけるのが役目というわけです。

 校閲者が「日本語のプロ」「日本語の専門家」だと思っている人は、意外に多いようです。しかしそれは少しばかり間違った見方のようです。
 校閲のプロ中のプロ、新潮社校閲部部長、井上孝夫さんがこの度上梓した『その日本語、ヨロシイですか?』(新潮社刊)のなかで校閲者のことを「一般読者の先遣隊」であり「言葉に対して素人であることのプロ」 だと解説しています。
 自分を言葉の素人だと自覚し、テキストと自分自身を上手に疑いながら、研ぎ澄まされた嗅覚で危ない箇所を見分け、怪しい部分は慎重に調べて行く。知識にそれほど自信はなくとも、常識的判断力に自信が求められる仕事だとのことです。
 なるほど、我々読者が疑問に思うことを先回りして解決してくれて、作家さんの意図をスムーズに理解し、素直に文意を受け取れるよう、そっとサポートしてくれる大切な役割なんですね。

■死語の世界

 時代とともにうつり変わる言葉の問題。なかでも世代間の言葉のギャップはとても興味深い事例です。『その日本語、ヨロシイですか?』のなかで死語にまつわるクイズを出してもらいました。
 これらの死語(?)は、現代ではなんと言われているものでしょう。

1.おみおつけ
2.ランデブー
3.しきま
4.えもんかけ
5.ごふじょう

 わかりましたか? 答えは以下のようになっています。

1.味噌汁
2.デート
3.女たらし
4.ハンガー
5.トイレ

 三十歳以上の方は、これは死語じゃない、現役で使ってるよ、なんて異論はあるでしょうが、それを議論するのもまた楽しいものです。

■その日本語、ヨロシイ?!

 他にも同書では、どこか怪しい日本語の数々について校閲者ならではの見解が語られています。

「余生を振り返る」 ?
「手練れの職人」 ?
「圧倒的な映像でお送りする~」 ?
「犯罪を犯す」 ?
「享年八十歳」 ?
「チゲーよ!」 ?

 これらの言葉にまったく疑問の余地が無いという方はいませんよね。喉に小骨が引っかかったように気に障るこれらの言葉。これらの言葉の背景を校閲者ならではの観点で読み解いてくれています。言葉は生き物なんてよく言われますが、時代や世相に応じて変化してゆく言葉の問題を井上さんは同書の中でこう語っています。

「自分で考えてみることが、言葉の問題では必要なのだと思います。どこかの偉い先生が正解を全て知っている、なんてことは幻想でしょう。」

 こう言われるとなんだかほっとする気もしますが、その発言の裏打ちとなる言葉に対する真摯な姿勢を知ると身の引き締まる思いもします。なんとも奥深い言葉と校閲の世界、その一端をあなたも覗いてみてはいかがでしょうか。

デイリー新潮編集部