「先生となら娘を結婚させてもいい」と迫られて 東大生の家庭教師が担当替えを願い出ることも…知られざる“家庭教師あるある”
子どもとの相性
一方、個人で家庭教師を雇っている親御さんからはこんな悩みの声も。
「子どもとの相性が合わず、家庭教師に『辞めてもらいたい』と伝えるのにかなり勇気が要りました。派遣会社から来る先生の場合は、直接話をする必要がなくまだ断りやすかったですが、個人契約の先生の時は切り出すのが難しかったです」
下手な断り方をすれば相手を傷つけてしまう。また、家庭のことを知られているため、SNSで何を拡散されるか分からないという不安もあったという。
「小学生の子どもだったら『中学受験を止めた』などとウソもつけますが、うちは高校受験。最終的には『塾に通わせることにした』とありきたりなウソで逃げましたが、それでも結果的に先生にとっては戦力外通告と一緒ですからね。学生バイトからすると辛いと思います」
こうした悩みは多いのか、実際、ネットには定型文などが多く紹介されている。
家庭訪問で気付く多様な常識
こうして見てみると、家庭教師のデメリットは、「教師が家庭を訪問する」という環境に起因していることが多いが、家庭教師の魅力もまた、家庭を訪問するところにあると言える。
家庭教師として多くの家庭の中にお邪魔すると、世間の常識や価値観、貧富の差など、社会には実に様々な生き方が存在していることに気付かされる。
寒いのに暖房を付けずに服を着こむのが当たり前の家庭、4人家族なのに、その5倍くらいの靴が玄関に出しっぱなしの家庭、お茶を出す家庭、出さない家庭――。
筆者には、ある忘れられない家庭がある。
先ほど「家には必ずと言っていいほど親または保護者がいる」と紹介したが、その家には筆者の滞在中、ほとんどと言っていいほど毎度親が不在だった。
古い団地の4階。高校受験を控えていた中学3年の女子生徒で、毎度段ボール箱を繋ぎ合わせたような小さな机で勉強していた。1LDKのようではあったが、ふすまがなく、近くでは彼女の妹がテレビを観ている。
シングルマザーの家庭で、母親は遅くまでパートに出ていたのだ。
勉強が終わると、その生徒が狭いキッチンで家族3人分のご飯をつくり始める。自分が母親に家庭教師代を負担させてしまっていることに罪悪感を覚えていると口にする姿に、胸が痛んだ。
家庭を訪問するというのは色々心的な負担が大きいが、私はあの頃の経験で、この日本のリアルを見ることができた気がした。



