「高市氏への“警戒心”がミスリードに繋がり……」 テレビ局が「総裁選予測」を大外ししたワケ 「LINE頼み、地方出張も激減」で取材力も低下

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 自民党総裁選が終わって最初の月曜日、10月6日放送のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」とTBSの「ひるおび」では、政治解説コーナーが謝罪から始まるという異例の一幕があった。この2番組で政治解説を行っているジャーナリストの田崎史郎氏が、「お詫びをします」と頭を下げて小泉進次郎農水相の勝利を予測してきたことにふれ「自分の取材が甘かったです」と平身低頭に述べた。これらのみならず他のテレビ各社のニュースや情報番組でも、局員の記者、フリージャーナリスト含めて小泉候補優位という報道が大半だった。予測が外れ、解説を担当したジャーナリストが謝罪をするという現象は、現在のテレビ各局の政治取材の様々な課題を浮き彫りにしている。

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まるで「推し活」のように

 政治報道、なかでも総裁選や総選挙は、苛烈な権力闘争を取材するゆえに、刻々と情勢は変わるものである。またライバル陣営を陥れるための真偽入り乱れた情報が飛び交う戦いでもある。これは政治記者が入社後、最初に教えられることだ。だからこそ局の総力を挙げて数多くの取材を積み重ね、各陣営の思惑を乗り越えた真相や核心をその都度視聴者に伝えていくことが求められる。放送にあたってはクレジットを入れて、流動的な要素があることなども合わせて伝えるリスクヘッジも意識されている。

 しかし昨今の情報番組は、「勝ち馬予想」や、「推し活」のような候補者のもてはやしに注力している実情がある。だから田崎氏は「外した」と責任を感じて謝罪までしたのだと思う。もちろんそうした番組の演出に問題があるのみならず、取材側にも課題は多数存在している。選挙後、高市早苗総裁の「ワークライフバランスを捨てます」発言が一部で批判をされたが、皮肉なことに政治記者の「ワークライフバランス」重視の姿勢こそが、今回の小泉候補優位の予測につながった側面があると、取材現場の声から感じている。

LINEで夜回りをする政治記者たち

 筆者が永田町を取材した時代に辛かったのは、毎朝毎晩、取材対象者のもとを回り続けることだった。秘書から予定を把握するのは夜回りには不可欠だが、それでも政治家は隠密行動が多く、出入りしそうな料亭やホテルを張り込むなど努力を重ねてきた。しかし現在の政治記者たちは、効率的な取材のために、まずは議員とLINEでつながることを重要視している。ある男性の与党担当記者は「LINEであれば忙しい合間にも返してもらえるし、通話だってできる。裏どりには欠かせない取材ツールだ」と話す。もちろん彼のLINEには大量の永田町関係者が登録されている。ある女性野党担当記者は「LINEって顔写真はもちろんだが、オリジナルスタンプを送ったりできるし、印象を残すアピールもたくさんできる。囲みの夜回り取材をいくつもするより、LINEはサシ取材だからよほど効率的」と、「取材ツール」としての強みを強調する。

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