「高市氏への“警戒心”がミスリードに繋がり……」 テレビ局が「総裁選予測」を大外ししたワケ 「LINE頼み、地方出張も激減」で取材力も低下

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メモはLINEのスクショ

 しかし異なる見方をするベテラン政治デスクもいる。「今の若い記者に取材メモは?と聞くとLINEのスクショを送ってくる記者がいて驚いたことがある」と話す。LINEは基本的に短文形式のツール。ある情報の真偽を閣僚経験者に確認取材した記者のLINE画面を見ると、相手からの「外してはないね」とか「大筋ではいいでしょ」など、忙しい合間をぬって返したらしい、曖昧な返答が書かれているものがあった。これで「裏が取れた」と判断をしているとしたら、極めて不安を感じる内容だった。

 前出の政治デスクも「リアルなやりとりであれば、顔色や声のトーンなどを言葉と合わせ、真偽の解釈ができる。囲み取材であれば、解釈を番記者同士で議論することもできる。しかし、LINEという“飛び道具”では、こうした温度感に乏しい取材となってしまう。しかしテレビは速報メディアだから、やはりすぐに相手と接触しやすいLINE取材をやめろとは言いにくい」と不安を感じつつ、容認しているそうだ。

 しかし、今回の総裁選で誰に投票するのかという重要でセンシティブな問いに、果たしてLINEというツールで真剣に答えてもらえるのだろうか。票読みは議員をどれだけ現場取材でつぶしていくのかが重要だが、曖昧な態度や本音を見せない回答の読み解き、偽情報を流すケースへの対応には、取材側の技術が問われる。支援者の意思が明確な、小泉陣営以外の候補者の票読みが甘かったことが、その点を露呈しているように感じている。

激減している「選挙区」取材

 今回の総裁選では、一回目の投票で高市候補が党員票で他候補を圧倒。また、決選投票でも都道府県連の票で小泉候補を大きく上回った。高市総裁の勝利には「地方の声」が大きく貢献していたわけで、逆に言えば、この「地方の声」を見誤ったことが、テレビ局の報道が外れた要因でもある。

 かつての政治取材の世界では、有力議員の地元選挙区には頻繁に足を運べと言われてきた。寺で行われる後援会の車座集会などに顔を出せば、東京育ちの記者には接することのできない、地方の有権者の温度感がわかる。私自身も東京と地方の政治意識の差にショックを感じることが多々あった。外交や安全保障よりも農道や信号機の設置など、身近な話題が多い。地方の政治感覚を学ぶことで、自民党政治を底流から支える人々の深層心理を知ることができた。

 しかし今や「働き方改革」「労働時間削減」ということで、週末のこうした地方出張は姿を消している。市民会館レベルでの講演となれば、地方局のカメラが撮影をして映像を東京に送ってくれる。この形式であれば表面的な発言をカバーし報道することはできる。AIが発言のメモ起こしもしてくれる。しかし地元有権者の本音や不満を理解することはできない。今回の総裁選でも、高市候補への地方の熱量が議員をここまで動かすこと、それだけ各議員にとって地元地盤が盤石ではなくなってきていることをどこの社も正確にとらえきれていなかった。

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