「高市氏への“警戒心”がミスリードに繋がり……」 テレビ局が「総裁選予測」を大外ししたワケ 「LINE頼み、地方出張も激減」で取材力も低下

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効率的な官僚秘書官取材

 また、テレビ局の記者たちは、日々の取材の中で、高市候補への否定的な感情を刷り込まれていた可能性もある。

 政策の内容や調整状況を知るために記者に必要なのが、官邸や閣僚を担当する官僚秘書官への取材だ。彼らは記者対応の役割も事実上担っており、彼らに聞けば、効率的に、法案のスケジュールや調整状況、政策の骨子や数字を把握することが可能になる。しかし、当然、彼らはその時々の政権寄りのスタンスを取り、時に国民目線から乖離していることもある。岸田内閣では「育休中の学びなおし支援」が批判を集め、石破内閣では「米価高騰」への対応が遅れたことは、スーパーエリート官僚の意識も国民から離れたところにあることを示している。

 そうした官僚は、今回の総裁候補で言えば、そつなく政策を遂行していく「林芳正」型の政治家か、見栄えが良くて御しやすい「小泉進次郎」型の政治家を好みがちである。一方、財務省とは真逆の積極財政論者で、総務大臣時代には、たびたび官僚と衝突してきた高市新総裁には警戒感を持つものも少なくない。そうした秘書官たちと日々接する中で、テレビ局の記者たちも、知らず知らずに高市氏へのマイナスの感情が生まれ、そうした先入観が予測に影響した可能性もある。

 そもそも、高市総裁は総務大臣時代、政治的公平性を欠く放送局に対して「停波の可能性」を言及するなど、テレビ局への牽制を繰り返してきた。こうした経緯から、メディア側にも高市氏への警戒感を持つ記者も多く、リベラルな論調の放送局などからは、思想的な意味での距離もあるだろう。こうした様々な「高市不安」が、「小泉期待」へと無意識につながってしまった側面があったのかもしれない。

LINEと東京だけの取材で失うものは

 LINE取材、選挙区取材の激減、官僚秘書官への取材。どれもが昨今の「働き方改革」で当たり前となっている政治取材のトレンドだ。しかし、今回の総裁選で、こうした取材では決して辿り着けなかったのが、麻生太郎元総理の胸中だったであろう。デジタルとかけ離れた、アナログな昭和・平成政治のドン、麻生太郎氏がどのように1票1票を読み、周到に指示を出したのか。それは決して東京での、LINEをベースにした浅い取材ではわからないはずだ。

 総理時代にひどくたたかれたことから、メディアを決して信用しないといわれる彼の心の内側を、テレビ記者は読み解けなかった。そして、各種報道で伝えられているように、高市総裁の勝利を決定づけたのは、麻生氏の一声である。麻生氏の今総裁選での地方票の読みの正確さは、地方の有力者との血の通った人間関係を持つ最後の政治家の底力をまざまざと見せつけた。そこにメディアは残念ながら迫れなかった。近年、取材の効率ばかりを追求してきたテレビ局をはじめとするメディアは、今回の“敗戦”を機に、改めてその手法について議論を重ねたほうが良いのかもしれない。

多角一丸(たかく・いちまる)
元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト

デイリー新潮編集部

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