まるで別人…“突然速くなった”女性スプリンターの疑惑 「目をそらすために派手なファッションを」(小林信也)

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 フローレンス・グリフィス・ジョイナー(米)ほど鮮やかな覚醒を遂げた選手をほかに知らない。

 1984年ロサンゼルス五輪の陸上女子200メートルで銀メダルを取っているからトップ選手の一人であるのは間違いなかった。が、当時の女王はエベリン・アシュフォード(米)、ジョイナーは4番手の選手だった。「優勝候補アシュフォードのケガで運よく銀メダルを手にした」それが彼女の評価だった。銀メダル後、十分なスポンサーが得られなかったジョイナーは銀行員の仕事に戻り、陸上競技から離れがちの生活になった。

 ところが87年春、競技場に戻ってきた彼女は別人のような、目を見張るスピードで疾走し、スタジアムを騒然とさせた。

 そして88年7月、アメリカの五輪選考会女子100メートルでジョイナーは驚異的な世界記録を樹立する。

 5レーンのジョイナーは、スタートからリードを奪い、中盤からグングン加速すると2位以下を大きく引き離し、上下動のない安定したフォームでゴールラインを駆け抜けた。その勢いはすぐに収まらず、トップスピードのまま30メートル以上は走っただろう。これほど悠々と、しかも大股で楽しそうに走る女性ランナーを見るのは初めてだった。

 記録は10秒49。従来の記録10秒76をコンマ27秒も上回る、圧倒的な新記録だった。走り終え、両手を上げて歓声に応えるジョイナーの笑顔は普段どおりの冷静さ、呼吸が乱れた様子もなかった。記録以上にその余裕に激しい衝撃を受けた。

 88年ソウル五輪は、ジョイナーの独擅場だった。

 女子100メートルは10秒54、200メートルでは21秒34の世界新記録で優勝。400メートルリレーで金メダルを獲得しただけでなく、1600メートルリレーにも出場し、銀メダルの一翼を担った。この大会でジョイナーは女王として揺るぎない地位を確立し、歴史にはっきりと名を刻んだ。

 男子100メートルでは9秒79の世界新記録をマークし、宿敵カール・ルイス(米)を抑えたベン・ジョンソン(カナダ)が競技後の薬物検査で失格になった。対照的に、ジョイナーは検査で違反もなく、栄光は正式なものとなった。

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