少し古臭い気もするけれど…「サンマは塩焼きで食べるべき」ではなく「食べるべし」が望ましい?

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 こんにちは。新潮社校閲部の甲谷です。

 今日もクイズから。

 難読の「熟字訓」に関するクイズです。次の熟語の、最も一般的な読みはそれぞれ何でしょうか? どれも実際のゲラでよく出てきて、ルビを振ることが多いです。

 a.晩生 b.檜皮 c.雲雀 d.合歓

辞任すべき? 辞任すべし?

 石破茂首相の辞任表明には驚きましたが、まず、以下の2つの文を読んでみてください。

1.首相は即刻、辞任すべき。
2.首相は即刻、辞任すべし。

 文末が「すべき」「すべし」で異なっていますね。1番の「辞任すべき」は文法上誤りで2番の「辞任すべし」に直すべき……いや直す「べし」、と言われることがよくあるのですが、実際にはどうなのでしょうか? 「べき止め」とも呼ばれるこの問題について、現場の感覚も重視しつつ、辞書を引きながら考えてみたいと思います。

 まず、なぜ「辞任すべき」が文法上、誤りとされることがあるのか。簡単に言いますと、「べき」は助動詞「べし」の連体形であって、「べき」で文章を終えてはならず、必ず後に名詞や「だ」を付けなければならない(例えば「辞任すべきだ」「辞任すべき状況である」とする)、ということなのです。「べき べし 違い」でネット検索してみると、「辞任すべき」で止める表現は誤り、としているサイトが多いようです。

 新聞の見出しでは、「べし」(もしくは「べきだ」)が多用されます。上の例のように、社説で提言・主張する際などに使われていますよね。しかし、「辞任すべし」は古文の助動詞「べし」を想起させ、日常的に使うとややかしこまった表現にも思えますし、「辞任すべき」でも間違いではない気がします。

 別の文ではどうでしょうか。

 3.「ホタテはバター焼きで食べるべき」と彼女は言った。
 4.「ホタテはバター焼きで食べるべし」と彼女は言った。
 5.映画はやっぱり映画館で見るべきと私は思うね。
 6.映画はやっぱり映画館で見るべしと私は思うね。

 3番と4番なら、どちらかというと3番のほうが自然な気がしますよね。5番と6番の比較でも、6番はややかしこまった表現に思えます。5番は友達との会話、6番は大学の講義で教授が話しているイメージでしょうか。賛否両論はあるにしろ、「べき」は軟らかい・婉曲的(遠回し)、「べし」は硬い、という方向性がありそうです。

たくさんの辞書を引く

 では、辞書ではどのような扱いになっているかを確認していきます。まずは「広辞苑 第7版」から。

 べき【可き】(「べし」の連体形)⇒べし。「早く対策をたてるべきだ」

 とあり、「べし」を引いてみても上の1番の用法については触れられていませんでした。

 つづいて、同じ岩波書店の「岩波国語辞典 第8版」を引いてみると、「べし」の項に、

 言い切り「べし」は「べきだ」とするのは普通だが、近ごろは「べき」で言い切る形が多い。

 との指摘がありました。用例としては、「子供なら親を敬うべき(だ)との意見」とあり、「敬うべきとの意見」という表現、すなわち「べき止め」も許容していることがわかります。

 一方、「明鏡国語辞典」第3版では、

 文の終わりを終止形「すべし」でなく、連体形「すべき」で止めるのは誤り。「べきだ」「べきである」などが適切。

 と、はっきり「誤り」と言っています。

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