「奥歯の不具合」がアルツハイマーにつながる! 専門家が教える予防方法

ドクター新潮 ライフ

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 歯の数が減ることでアルツハイマー型認知症のリスクが高まる――。こうした研究は従来知られてきたのだが、なかでも「奥歯」が失われると、その危険は最大で5割も増すという。科学ジャーナリストの緑慎也氏が、「歯と脳」の密接不可分な関係をレポートする。【緑 慎也/科学ジャーナリスト】

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「唇亡びて歯寒し」とは、一方が失われると他方も危うくなる関係を意味する慣用句である。国であれば同盟、企業ならば提携関係にある片方がつぶれることで、他方も深刻なダメージを受けるという事態が想定されるのだが、実は歯は、唇にとどまらず他の器官とも極めて深い関係にあるのだ。

 九州大学大学院歯学研究院の鮎川保則教授(義歯補綴〈ほてつ〉学)が言う。

「私たちが65歳以上の約2万3000人分のレセプト(診療報酬明細書)データを調査したところ、奥歯の上下の噛み合わせが『ある人』と比べ、『ない人』はアルツハイマー型認知症の発症リスクが高まることが明らかになりました。この調査結果は昨年、論文で発表しています」

「歯滅びて脳寒し」

 アルツハイマー型認知症とは、記憶や思考をつかさどる神経細胞が損傷し、脳の機能が衰えていく病気。つまりは「歯亡びて脳寒し」のような関係にあるという。

 親知らずを除けば成人の歯は全部で28本。上下とも一番前の歯から数えて4、5番目が小臼歯、6、7番目が大臼歯と呼ばれており、これらが「奥歯」である。歯科では一般に、奥歯全体を四つの噛み合う「領域」に分類している。各領域には上下2本ずつ含まれ、小臼歯グループと大臼歯グループがそれぞれ左右に2領域で、計4領域を形成している。

 例えば一つの領域で上下とも失われていたり、上だけ2本残っている、あるいは互い違いに1本ずつ残ったりしているケース。この場合はいずれも噛み合わせ「なし」とされる。同じ領域で上下同じ番号に1本ずつでも残っていれば「あり」となるわけだ。

奥歯が噛み合わなければリスク5割増

 鮎川教授らは「アイヒナー分類」と呼ばれるこの手法で、65歳以上の高齢者を4領域の噛み合わせがすべてあるA群、0~3カ所あるB群、4領域の噛み合わせ0で、さらに前歯の噛み合わせもないC群に分類。アルツハイマー型認知症の発症リスクとの関連を調べたところ、A群に比べてB群は1.34倍、C群は1.54倍に上ることが分かったという。

 奥歯が噛み合わなければリスクが最大5割増とは、ただ事ではない。それでも鮎川教授は、

「この結果には驚きませんでした。というのも臨床の現場では、奥歯でしっかり噛める人は元気だ、と常々感じていたからです。私たちの調査結果を見て『やっぱり』と思った歯科医は多いことでしょう」

 実は、歯と認知症との関連が取り沙汰されるのはこれが初めてではない。例えば日本歯科医師会の研究機関である日本歯科総合研究機構が2021年に発表した論文がある。

 歯科を受診した60歳以上の約467万人のレセプトデータなどから、歯の数とアルツハイマー型認知症との関連を調べたこの研究によれば、歯の数が少ないほど、また欠損した歯の数が多いほど発症リスクが高まったという。

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