「奥歯の不具合」がアルツハイマーにつながる! 専門家が教える予防方法

ドクター新潮 ライフ

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インプラントと義歯

 いくら留意していても、残念ながら奥歯を失うこともある。その場合、選択肢に挙げられるのが義歯(入れ歯)やインプラントによる治療だ。いずれも歯の機能を補う手段だが、それぞれに特徴と注意点がある。

 インプラントはチタン製の人工歯根を顎の骨に埋め込む方法。自分の歯に近い噛み心地が得られるが、保険適用外で費用がかさむ上、骨の状態や疾患によっては適応でない場合もある。

 一方、義歯は保険診療で対応できることが多く、取り外しも可能。天然の歯に比べて噛む力は劣るものの、

「話しかけてもはっきりした答えが返ってこなかったのに、義歯を入れたら途端にシャキッとなった高齢者を何人も見てきました。奥歯を失ったら、ぜひ義歯かインプラントを入れてほしいと思います」

 とは鮎川教授。ただし、義歯は入れて終わりではないとも指摘する。

「義歯の歯は硬質プラスチック製で、使ううちにすり減ります。5年ほどたったら作り直した方がいいでしょう。その際は、必ず歯科医院で咀嚼能率(食物を粉砕できる力)を測ってください。『何でも噛めます』とおっしゃる方でも、ほとんど噛めていない場合がよくあります。定期的な咀嚼能率の検査は単なる補修ではなく、生活の質を守る行為でもあるのです」

 歯亡びて脳寒し――。歯が失われれば身体も、人とのつながりも、脳も冷えていく。歯は決して消耗品ではなく、私たちの生きる力と深く結び付いているのだ。

緑 慎也(みどりしんや)
科学ジャーナリスト。1976年大阪府生まれ。出版社勤務後にフリーとなり、科学技術などをテーマに取材・執筆活動を行う。著書に『13歳からのサイエンス』(ポプラ新書)、『認知症の新しい常識』(新潮新書)、『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(共著、講談社)など。

週刊新潮 2025年9月11日号掲載

特別読物「リスクは最大で5割増!『奥歯』の不具合がアルツハイマーを引き起こす」より

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