「奥歯の不具合」がアルツハイマーにつながる! 専門家が教える予防方法

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

歯の減少で社会的に孤立

 食べにくさ、喋りにくさが外出を遠ざけ、社会的な孤立を招く。人と話す機会が減り、結果的に心の健康が損なわれる。「風が吹けば桶屋が儲かる」よりもはるかに合理的な連鎖が、奥歯と認知症とを結び付けている。口は消化の入り口であるとともに、社会生活の入り口でもあるのだ。

 歯を失えば健康や生活の質に悪影響が出ることは以前から知られていた。厚生省(当時)が日本歯科医師会と共に「80歳になっても20本以上自分の歯を残す」ことを目標に掲げる「8020運動」を始めたのは1989年。以来、歯科健診や適切な歯磨き、早期治療が推進されてきた。

 鮎川教授によれば、治療技術も格段に進歩したという。

「虫歯の治療では通常、歯を削って詰め物をしますが、30年前の材料は歯に接着しない材料だったため、その隙間から唾液が染み込んで時間が経つと再発し、結局、抜かざるを得なくなることがありました。近年は歯にも金属にもセラミックにも接着する優れた材料が開発され、密着性が格段に上がったので歯は長持ちします」

 80歳で20本以上残せる人は徐々に増え、23年に厚労省が発表した「歯科疾患実態調査」によれば51.6%に達している。

フロスと歯間ブラシ

 だが、ここまで述べてきた通り、「本数」を残すだけでは健康長寿は達成できない。認知機能の低下を防ぐ上で特に重要なのは、奥歯でしっかり噛める、つまり上下の噛み合わせのセットを機能させることなのだ。

 そのために何ができるのか。まず対処すべきなのは歯周病と虫歯(う蝕)だ。歯が失われるのは多くの場合、歯科医院での抜歯処置によってだが、18年「永久歯の抜歯原因調査」によれば、抜歯原因の1位は歯周病(37.1%)、2位は虫歯(29.2%)である。

 歯周病や虫歯対策として池邉教授が勧めるのは、歯間ブラシやデンタルフロスの使用であり、

「歯と歯の隙間の狭いところにはフロス、広いところには歯間ブラシをぜひ通してください」

 そう強調する。筆者も就寝前にフロスを用いるが、歯ブラシで磨いた後なのによくもこれほど、と驚くほどの「ぬめり」を感じることがある。

「それは細菌が集まって膜状になったバイオフィルムで、歯周病の進行を促します。細菌が分泌する物質がバリアの役割を果たし、なかなか除去できません。ちょうど排水口の周りに付着する『ぬめり』が水を流しても落ちないのと同じで、歯に付いたバイオフィルムも機械的に除去する必要があります」(同)

 加えて、主に中高年の人にこう呼びかけるのは鮎川教授である。

「自分で奥歯を噛み割ってしまう人が少なくありません。特に多いのは、虫歯の治療で神経を抜いた後です。神経を抜いた歯は脆くなっているため、奥歯を噛む強い力で割れやすくなります。ある日突然真っ二つに割れることもあれば、ひびが入ることもある。縦にひびが入ると、多くの場合抜歯せざるを得ません」

 歯ぎしりや食いしばりのクセのある人は、特に要注意だという。

「就寝時にマウスピースを使うだけでも噛み割るリスクをぐっと減らせます。日中の食いしばりがある人は、毎時0分になったら口を開けるように習慣づけたり、紙に『噛まない!』と書いて壁に貼ったりするとよいでしょう」(同)

次ページ:インプラントと義歯

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[4/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。