タイで「麻薬カクテル」に溺れる恋人を救いたい…容姿端麗な「女性薬剤師」を待ち受けていた“予想外の悪夢”
タイで増える「ディスペンサリー」
葵さんの話を受けて、筆者は次のように語りかけた。
――さすがクスリの専門家だね。サムンプライどころか、「ヤーケーノムポン」や「ヤーバ」まで知っているとは驚いた。さて、最初に聞いておくけれど、君自身にはクスリの経験はないのかな? 薬物に手を出した男はまず間違いなく女に勧めてくる。特に覚醒剤はね」
「……すみません。過去に留学先のアメリカで友人に勧められて、2回ほどマリファナを吸ったことがあります。うわさ通りハッピーになれるドラッグだとは思いましたが、それ以上でもそれ以下でもなく、帰国後は完全に忘れていました。恭介から大麻を勧められたときは“さずがに今は立場上まずいかな……”と思ったものの、お付き合いで吸ってみたんです。それ以前に、タイに1万店舗以上もあるという“ディスペンサリー”に興味が湧いていたのも事実です。店先で“ハワイアン・ヘイズ”、“スカンク”、“ブッダクッシュ”など、ありとあらゆる銘柄の大麻が売られているんですよ。日本人の店長や、バドテンダーもいて“このブランドは香りがスイートで睡眠作用は抜群だよ”とか、銘柄ごとの効果の違いまで詳しく説明してくれました」
彼女が口にした「ディスペンサリー(dispensary)」とは、本来、調剤薬局を意味する言葉だが、大麻業界では“認可を得て大麻を販売する店舗”の意味で使われる。さらに「バドテンダー(Budtender)」は、「Bud(大麻を指す隠語)」と「bartender(バーテンダー)」を組み合わせた造語だ。様々な大麻情報を伝える専門家と理解してもらえばいい。もちろん、公的な資格ではない。
葵さんが続ける。
「薬用植物という観点からも見ても、とても面白くて、価格も安い。日本では大麻1グラムが5000~6000円と聞きますが、タイでは高品質な有名銘柄でも1グラム=500~900バーツ(2200~4000円/1バーツ=約4.5円で計算)、安物なら100バーツ(同450円)で買うことができるんです。大麻成分の“カンナビノイド”のなかでも、幻覚成分とされるΔ9-THC(デルタナイン・テトラヒドロカンナビノール)やΔ8-THC(デルタエイト・テトラヒドロカンナビノール)の医療目的利用についても勉強しました」
「よーし、身体が浮いてきたぞ。自分が見えてきた!」
そして、日本に帰国してからの2人の様子に話が及んだ。
「私は一応、クスリの専門家ですから、さすがに日本でマリファナは吸いません。もちろん、ケタミンや覚醒剤は人生で一度も使用したことがありません。でも、恭介は……。バンコクでは現地の友達から薬物を買っていたのですが、帰国してからもSNSの密売人から買っているようなのです」
どうやら恭介は、日本でも引き続きケタミンを買い求めているという。余談だが、薬物密売に絡む日本のSNSでは、ケタミンの隠語として「象」の絵文字が用いられる。
「ケタミンは“動物麻酔”としても使われているので、“象の絵文字”になったのだと思います。私もこれには感心しましたが、そもそも密売人からケタミンを購入すれば、恭介が逮捕されかねない話なので。その上、最近になって恭介の様子がさらにおかしく……。なんと言ったらいいのか」
――まずは遠慮なく話してみなさい。
「はい、恭介の様子が明らかにおかしいのです。週末、私のマンションに来たときには覚醒剤のような物を炙って使い、直後に粉末のケタミンをスニッフィングすることも。クスリの副作用だと思うのですが、いきなり眼振(眼球を左右に何度も揺らすこと)させながら“これがオレ流のヤーケーノムポンだ! よーし、身体が浮いてきたぞ。自分が見えてきた!”と口にするのでゾッとしました。そうかと思うと、今度は“僕はもうだめだ、やめたい”といきなり塞ぎ込んで怯え出すのです。ドラッグを使うためのベープ(電子タバコ)も持っていて、繰り返し吸ってよだれを垂れ流しながら昏睡したこともありました」
海外でドラッグを経験した日本の若者が帰国後に同じブツを欲したとして、ひと昔前であれば暴力団組織と結びついた密売人や、素性不明の不良外国人に接触するなど、かなり危ない橋を渡らなければ思いを果たすことはできなかった。しかし、SNSでの密売が全盛のいまは、スマホさえあれば中学生でも容易に大麻や覚醒剤を入手可能だ。
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