タイで「麻薬カクテル」に溺れる恋人を救いたい…容姿端麗な「女性薬剤師」を待ち受けていた“予想外の悪夢”

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「ケタミンに溺れる彼を助けたい」

 ある女性が、ケタミンをべースにした「ケタミンカクテル(ケタミンに他の薬物を混合したもの)」にはまり、命からがら救急搬送されるという事件が発生した。彼女はなんと現役バリバリの薬剤師。それも「ケタミンや覚醒剤に溺れる彼氏を助けたい」と筆者に相談をしてきていた人物だった。

「私は薬理学の専門家を目指していたのに、なんでこんなことになったのだろう……」

 彼女はいま、自分のドラッグ物語を沈痛な面持ちで振り返る。ドラッグ使用に理屈はない。一旦溺れてしまえば、誰をも傷つけるということを読者に改めて知ってもらいたい。今回は彼女の承諾を得た上で、一部の情報を改変しつつ、薬物に関する知識も有する聡明な女性が、なぜドラッグの底なし沼にはまり込んでいったのか、その一部始終を紹介する。

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 このストーリーは、筆者が知人の研究者から葵さん(仮名・27歳)を紹介されたことに始まる。彼女は外資系の化学企業で研究員として働く容姿端麗な薬剤師だった。薬理学(薬物が生体に与える影響とその作用する仕組み、作用機序を探究する学問)や、生薬学(天然に産する植物、動物、鉱物成分の薬理作用などを研究する学問)については、筆者が舌をまくほどの知識を有していた。筆者はそんな彼女から“交際相手”に関する相談を持ち掛けられたのだ。

 当時、葵さんはこう語っていた。

「タイの伝統医学とサムンプライ(タイ語で“薬草”の意味)の薬理作用に興味があって、学生時代から日本とバンコクを行き来しながら学んでいます。そうしたなか、数年前にタイで知り合ったのが恭介(仮名・25歳)でした。私よりも年下ですが、猛アタックされまして……。どんなに断っても諦めない、彼の情熱にほだされて付き合うようになりました」

「ヤーケーノムポン」

 ところが、交際後まもなく、彼がマリファナをやっていることが分かったという。

「日本と違ってタイでは大麻が半ば合法化されているので、遊び程度ならばと思って許容していたのです。でも、次第に薬物使用がエスカレートして、“ヤーケーノムポン”や“ケタミンカクテル”と呼ばれるケタミンの混合剤とか、“ヤーバ”という錠剤形の覚醒剤にまで手を出し始めて……。日本に帰国してからも手に負えない状態になってしまっているんです」

 恭介はバンコクに派遣された大手企業のエリート若手社員で、性格も優しく彼女好みのイケメンらしい。今風に言えばハイスペックカップルということになるだろう。その恭介が、ケタミンや覚醒剤にはまり、あろうことか日本に戻ってからも“継続している”という。

 また、恭介が使用している「ヤーケーノムポン」とはケタミン(タイ語で「ヤーケ」)と粉ミルク(同じく「ノムポン」)を足した造語で、白色の粉末状ケタミンに、様々な薬物をブレンドした”ドラッグカクテル“を指す。“K-ノムポン”と表示されることもある。ブレンドする薬物はMDMAやBZP系の睡眠薬、覚醒剤やヘロインの場合もある。「ヤーバ(yaba)」とは覚醒剤の錠剤を指し、「ヤー」はクスリ、「バー」は「頭がおかしい、馬鹿」といった意味がある。

 ちなみに、タイでは2022年に大麻に関する規制が緩和され、医療目的で大麻の販売や使用ができるようになった。だが、国内では“娯楽目的”での使用が蔓延。タイ政府は今年6月24日、「大麻の使用には医師の処方箋を必要とする」と再規制に乗り出している。

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