名医ランキングは参考にならない? 延命のために高額の医療費を使うべき? 医者と患者は「がん」とどう向き合うべきか 里見清一×川上未映子
『患者と目を合わせない医者たち』(新潮新書・6月刊)を上梓した里見清一医師に、母親を膵臓がんで亡くした作家の川上未映子さんが、ご自身の体験をもとに疑問に思ったことを尋ねてみた。医者と患者は「がん」とどう向き合うべきか。対談内容は示唆に富む。
***
【写真を見る】医師の里見清一氏と、母をすい臓がんで亡くした作家の川上未映子氏
川上 2年半ほど前に母が膵臓がんになり、昨年春に亡くなったのですが、当時、手術もできない状況で、恐慌状態に陥りました。私は40代半ばでしたが、がんについて全くの無知で、それでがんに関する本をたくさん読み、ある人の紹介で里見先生にもお目にかかりました。今回のご本は、医療に関する問題が網羅されています。医者と患者の双方が、病とどう向き合うべきか。本当に重要なことばかりが書かれていて、必読の書だと強く感じています。
里見 2年ちょっとの連載をまとめたわけですが、私の話はあちこちに飛びますので、編集部に医療問題にしぼってもらいました。
名医ランキングは参考になる?
川上 まず、私たちはシリアスな病気になればなるほど、最高の技術と経験を持った医者に巡り合いたいという幻想がある。普段、ちょっと体調が悪い時に行くかかりつけのクリニックの先生とは違って、がんの先生は治してくれるか、くれないか――文字通り命を預け運命を決定する神のような存在になってしまう。そしてネットなどで調べ続けてるわけですが、例えば名医ランキングは参考になるのでしょうか?
里見 よくメディアで取り上げていますが、あれはすごくいい加減です。「病院別の各がんの5年生存率」なんてデータを好んで発表したがりますが、アメリカのニューヨーク州などで、外科医が担当する患者の死亡率を公表したところ、外科医は手術の成功率を上げるため、複雑な病態の患者の治療を回避するようになったといいます。手術件数の集計も自己申告で、信頼性は怪しいと思います。
がん告知をはじめた経緯
川上 がんを気にしないでいられるのは20代から40代くらいまでで、自分はまだ平気でも、親の問題が出てきます。もし手術をすることになったとき、いい医者にがんを切ってもらうためには誰に聞けばよいのでしょうか?
里見 本当なら、かかりつけ医がその機能を果たすのでしょうが、なかなかうまくいかないようですね。私はまだ現役である程度の顔は利くので、自分が治療できない場合には誰のところに行けばよいと言えます。アメリカではそういうのを商売にするコンシェルジュドクターというのがいて、「かかりつけ」よりお金はかかりますが、自分のコネを使って便宜を図り、紹介してくれる。これが非常に増えているそうで、これから日本でも出て来るんじゃないですかね。
川上 がん以外でも、シリアスな病気はたくさんありますが、がんは他の病気とは違う、独特な重みがありますね。
里見 かつて医者はがん患者に病名告知はしませんでした。それが「患者のため」であり、不治の病と知ると患者は悲観して自殺するかもしれないと戒められていました。それが当時の医の「倫理」であり「正義」でした。1990年に横浜の市民病院に勤務していた頃、私は当時の上司の部長と二人で「もう、さすがに言わなきゃいけないよな」と相談して、肺がんを告知し始めました。がん告知では、日本で最初の医者の一人だったと思います。
川上 当時は伏せるのが常識でした。「さすがに」というのはどういうことだったのですか?
[1/4ページ]









