名医ランキングは参考にならない? 延命のために高額の医療費を使うべき? 医者と患者は「がん」とどう向き合うべきか 里見清一×川上未映子
医療費の無駄遣いをなくす
川上 私たちは、そういう時に、いろんな緩和ケアの技術とセンスがあって、良い医者に巡り合いたいという気持ちがあるのですが、それは一部の人だけが望めることで、ほとんど無理です。自分の身に起きたことに驚いて、目の前のことに飲み込まれるしかなくて、みんな段ボール箱でもつぶしていくように死んでいくしかない。それが現実ですよね。
里見 すごい表現!
川上 それでも、私たちは対症療法で痛みを緩和してもらいながら生きているのだから、がん患者にとっての緩和ケアも治療の一つだと周知されたら、死に向かう準備をしているのではなくて、生きている自分が今を生きるために受けている治療だ、と思えるかもしれない。
里見 いや、周知はしているのですが、問題はやはり医者の方で、最後になって「緩和ケアにでも行け」というセリフを吐くんですね。あれが非常によくない。
川上 あと、抗がん剤をいつまで使い続けるのかという問題がありますね。里見先生は、このまま高額医療を野放しにしておくと、今の医療システムは崩壊するという危機感から、「SATOMI臨床研究プロジェクト(SCP)」という社団法人を設立されています。先生のご主張をごくシンプルに言えば「医療制度が財政的に崩壊する前に医療費の無駄遣いをなくそう」ですよね?
里見 SCPでやっている臨床研究の目的は、余計な薬の投与など過剰医療はやめて、治療を適正化しようということなんです。これは当たり前のようでいてそうでもない。幸か不幸か、日本ではコストを気にせず治療ができる。また、抗がん剤が効かなくなっても、治療をやめたら「緩和ケアに行け」で縁が切れるから、患者は、「なら何でもいいからやってください」と言い、医者も「じゃあ、効かないだろうけどやりますか」なんて話は実に多い。
子供たちのためにちゅうちょすることはない
川上 患者の立場からすると、可能性があるならやってほしいという気持ちがあっても、やっても意味がないなら思い切ってやめるという見極めがこれからは必要になってきますね。
里見 今、薬はどんどん高くなっていて、もうすぐ出てくる子供の筋ジストロフィー症の薬は4億円です。治療効果はあるそうですが、あんまり高いので小児科の先生はみんな使うべきか悩んでいます。でもね――。
川上 子供にはやるべきです。
里見 まったくその通りです。子供たちのためにちゅうちょすることはない。一方で、80歳、90歳の人をほんのわずか延命させるために何百万、何千万円と使い続けることがいいのか、真剣に考えないといけない。また、高い薬を製薬企業が言うより少なく使っても、効果は同じではないかという例も数多くあります。ただデータで実証していかないといけない。今のままでは保険制度で高額医療費をまかないきれなくなります。将来、どんな病気も治す、ものすごい治療法が見つかったとしても、ビル・ゲイツとイーロン・マスクにしか使えないのでは意味がない。
[4/4ページ]

