「高額ボーナスをもらうために世界記録を1センチずつ更新して…」 棒高跳び選手セルゲイ・ブブカの“貪欲さ”の理由(小林信也)
母国の危機を訴え
ブブカの人生には、政治の影がつきまとい、悲運と強運とが折り重なるように混在している。
誰もが知る悲運は、ブブカがオリンピックの女神に愛されなかったことだ。世界陸上を第1回から第6回まで連覇し、約15年にわたって王座に君臨した一方、五輪の金メダルは88年ソウル五輪の1個だけ。“4年に1度”の難しさは、〈鳥人〉ブブカでさえ、超えられなかった。
ソ連崩壊はブブカを“良い方向に向かわせた”と言っていいだろう。折しも世界のスポーツ界はアマチュア絶対主義からプロ化・商業化へと大きく転換した。83年の第1回ヘルシンキ世界陸上、84年のロサンゼルス五輪がその転換点といわれる。83年のヘルシンキで世界デビューを果たしたカール・ルイスと共に、ブブカは大金を稼ぐアスリートの象徴的存在になった。
引退後はビジネスでも成功。だが、いまブブカは戦火の渦中にある。
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから3カ月後の2022年5月のIOC総会にウクライナ五輪委員会会長として出席したブブカは、「少なくとも51人のスポーツ選手の死亡」を報告するとともにウクライナ選手らを支援するIOC基金の創設を呼びかけた。集まった約11億円の基金によって、「侵略後に出国した3000人以上の選手や指導者が各国でトレーニングを続けられている」と読売新聞の取材に答えている。現役を退いて25年。ブブカの戦いは終わらない。
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