犯罪者が狙う家の「二つの特徴」とは 「高齢者のフェイスブックは、犯罪者にとって“宝の山”」

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犯罪者をだます

 地域一体となってのパトロールも、自宅周辺の守りを固めるのには重要ですが、これもやり方を間違えると効果が全くなくなってしまうので注意が必要です。

 町会やPTAが地域のパトロールをしている光景を目にしたことがある、あるいはご自身が参加された経験があるという人も多いと思います。しかし、それがもし、漫然と地域を巡回し練り歩いているだけだとしたら、実はほとんど意味がありません。なぜなら、このやり方は動機を持っている人間を「見つける」ことを目的としていますが、それは至難の業だからです。しかも、犯罪者がそのパトロール隊に遭遇してもやり過ごせば済むだけです。このやり方は、「人(犯罪者)」に焦点を当て(犯罪原因論)、ルートを固定せずに回る「ランダム・パトロール」と呼ばれています。

 本当にやるべきは「場所」に目を向け(犯罪機会論)、犯罪の温床となりやすい場所を重点的に回る「ホットスポット・パトロール」です。トクリュウを例にとると、犯行現場からそう遠くない場所、例えばスペースが確保しやすいコンビニの駐車場にホットスポット(作戦本部)が設けられることが多い。そこに集合し、犯行現場に移動するのです。コンビニの駐車場に限らず、公園や空き地など、ホットスポットになり得る場所にパトロール隊が入っていき、しばしたたずむ。つまり、犯罪者を探すのではなく、犯罪計画を知っていることを犯罪者に「見せる」、そして犯罪決行を諦めさせることが大事なのです。もちろん、本当は知らないのですが、犯罪者はそれでだまされます。

性善説に基づいた「安全幻想」は通用しない

 ジョージ・メイソン大学のクリストファー・コーパー准教授は、実際に警察のパトロールに同行して調査し、ホットスポットに15分滞在することで最大の防犯効果が得られると報告しています。日本でも参考になる数字です。

 24年の警察庁の調査によれば、この10年で日本の治安が悪くなったと感じている人は76.6%にも達しています。島国ゆえに、古来、外敵に侵入され滅ぼされるという危機にさらされてこなかった日本人の、「みんな一緒で同じだから大丈夫」という性善説に基づいた「安全幻想」は、トクリュウを見れば明らかなように現代では通用しません。犯罪機会論を理解した上で防犯対策を取ることが極めて重要です。

 それは自分が犯罪の被害者になるリスクを減らすと同時に、犯罪の機会を奪って加害者を生み出さないことにもつながる。これこそが日本に「真の安全」をもたらすはずです。

小宮信夫( こみやのぶお)
立正大学文学部教授。1956年生まれ。社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。法務省、国連アジア極東犯罪防止研修所などを経て現職。警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長を務めるなど、犯罪学、防犯のプロ。近著に『最新防犯理論が解き明かす 犯罪者が目をつける「家」』がある。

週刊新潮 2025年8月28日号掲載

特別読物「犯罪者はどんな家を狙っているのか 我が身を守るための『最新・防犯対策』」より

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