京アニ事件から6年 「なぜ社会が涙するのか」“速さより深さ”で取材を続ける地元紙の矜持
2019年7月18日に京都市で発生し、36人が死亡し32人が重軽傷を負った、史上稀にみる凶悪事件「京都アニメーション放火殺人事件」(京アニ事件)の発生から今夏で6年となった。発生時から途切れることなく事件を追い続けてきた地元紙「京都新聞」の取材班が、1冊の本を上梓した。『自分は「底辺の人間」です 京都アニメーション放火殺人事件』(講談社)。事件以降、社内異動はあっても、被害者遺族の取材は同じ記者が担当し続けるなど、地道な積み重ねによって得られた事実が、事件の重大さ、時間の経過の重みを改めて今、伝えている。
【写真】当初、記者たちは分かっていなかったというが…「京アニの影響力」の大きさを示す事件後の光景 ほか
一報を聞き、会社に急行
「当時、私は事件デスクを務めていました。午後から出勤予定でしたが、第一報を聞いて急遽、会社に駆け付けました。テレビの速報で猛煙、黒煙、炎の様子に戦慄し、京アニ社内にいた多数のスタッフの安否が不明だと聞いて、頭が真っ白になりました。何から手を着けていいのか即座に判断できないほどの衝撃でした」
事件の4年後に始まった公判時の取材班代表を務め、同書のデスクも担った京都新聞編集局報道部社会担当部長の渋谷哲也さんが振り返る。
「当時の編集局長は、編集幹部をフロアに集め、『被害者の人生と作品をきちんと記録し、なぜ社会が、世界が京アニに涙するのか、本質まできちんと報じよう』と述べ、長期的な視野で『速さよりも深さ』を重視する編集指針を示しました。それに則った取材が今なお続いているというわけです」
日本でトップクラスのアニメーションスタジオであることは知っていたものの、ファンから敬愛を込めて「京アニ」と呼ばれている存在であることまで理解していた編集幹部は多くはなかったという。事件当日付の夕刊と翌19日付の朝刊で1面トップに使われた見出しがいずれも「京都アニメ放火」だったことからもそれが分かる。見出しが「京アニ」となったのは19日付夕刊からだった。
「京アニの影響力がどれほどのものなのか、事件発生当日はよく分かっていませんでした」
献花台に花束が引きも切らず 影響力の大きさ痛感
その影響力の大きさを、渋谷さんをはじめとする取材班の記者の大多数はすぐに実感することとなる。放火された同社第1スタジオの近くに事件2日後に設置された献花台には、1カ月強の設置期間中、花が途切れることなく供えられた。
「献花台には国内外から多くのファンが訪れ、行列を作っていました。彼らに話を聞くと、『私は京アニに助けられたんです』『感動をもらいました』『その京アニがなんでこんなことに……』と口々に訴えていました。そういう取材を通じ、記者の側も、京アニがいかに多くのファンに影響を与え、素晴らしい作品を世に出していたのかを肌で感じることができたのだと思います」
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