京アニ事件から6年 「なぜ社会が涙するのか」“速さより深さ”で取材を続ける地元紙の矜持
京アニ事件報道の今後
青葉死刑囚は2024年1月に京都地裁の一審で死刑を言い渡され、本人と弁護側がそれぞれ控訴したが、今年1月、青葉死刑囚自身が控訴を取り下げた。確定死刑囚となったことで、表面的な動きはほぼなくなっている状況だ。
「だからこそ、取材する側として何ができるのか。ご遺族にとっては、公判で一区切りがついたとはいえ、6年が過ぎたからと言って何もリセットされるわけではありません。さらにご遺族に寄り添っていきたいし、事件を受けて社会そのものがどう変わったのか、何が足りないのかなど、その検証は道半ばです」
事件報道において、亡くなった被害者については実名報道が一般的である。ただし京アニ事件では公判で実名が伏せられた人もおり、報道の在り方にも一石が投じられた。
「事実を記録し伝えるのが我々の仕事ですが、実名報道をめぐっては読者やネットからも批判を受けました。理不尽な惨劇を風化させないために何ができるのか。より多くの人が納得できる報道の在り方とは何か。最前線で取材している記者たちが苦悩し、心を砕いていることです」
報道として伝える義務と、被害者遺族の意思を無下にできない現実。36人の犠牲者の歩みや思い描いていた夢、未来。それを紹介したくても、被害者遺族に「そっとしておいてくれ」と言われれば、その先には進めなかった。
「36人の輝きを、私たちは社会の中でどう紡いでいくのか。業績や生きた証をどう伝えていくのか。社会全体で匿名化が加速する中ではありますが、それは今も我々に課された命題だと思います」
前例のない特異な事件をどう報道していくのか。今回の書籍は京都新聞紙上で連載された企画をベースに、関心のある読者に向けて、書籍というパッケージとして届けられた。
「書籍なら新聞とは違うベクトルで、情報を未来に向かって送り届けることができる。青葉死刑囚は決して特異な人物ではない。事件に関心のある人だけでなく、福祉や教育関係者などさまざまな人に手に取ってもらえれば」
京都新聞の取材班は、今後も深い取材を続けていく方針だ。



