出版業界では令和のいまも珍しくない「手書きの原稿」「赤ペンで修正」 データだけでのやり取りがかえって“非効率”な理由
AIには手の届かない領域もある
以上のように、出版業においてはその作業の特性上、「合わせ」をAIに一任することはなかなか難しそうです。というより、「人間がやったほうが早くて正確」な領域と言えるかもしれません。
AIが担える領域、担えない領域。それぞれを適切に判断したうえでAIとうまく付き合っていく。難しい課題ですが、今後、校閲の仕事においても避けては通れないことだと思います。それが時代の流れというものでしょう。
数十年前と今とでは、校閲の仕事内容は大きく変化しました。活版印刷の時代は「合わせ」、すなわち手書き原稿と活字の照合に多くの時間を割いていた校閲者ですが、今ではファクトチェックにかける時間の割合が大きくなりました。手書き原稿の割合が減った一方で、インターネットの発達により調べられることの範囲が爆発的に広がったためです。本格的なAI時代に突入すれば、校閲者の仕事内容は再び変化するかもしれません。
校閲の仕事は知的好奇心がなければ務まりません。AIを嫌ったり、恐れたりするのではなく、「理解しようとする」気持ちを、今後も忘れないようにしたいです。校閲者は原稿の文字だけでなく、心も「合わせ」ているのですから……。
次回は「AIと校閲」について、私なりに総括をしたいと思います。



